ドルトムント・香川真司 (c)朝日新聞社
ドルトムント・香川真司 (c)朝日新聞社

 ドイツ・ルール地方東部の都市・ドルトムント。中央駅から地下鉄に乗り、ドイツ語でスタジアムを意味する『スタディオン』駅で下車すると、試合3時間前にも関わらず、すでに黄色のユニホームをまとったサポーターたちが大挙押し寄せていた。

 この日は2018-2019シーズンのブンデスリーガ開幕戦で、ボルシア・ドルトムントの本拠地、収容人数8万720人を誇るジグナル・イドゥナ・パルクのゲームチケットはすでにソールドアウト。スタジアム併設の居酒屋ではサポーターたちが酒盛りを始めていて、ホームサポーターの今季の関心は『常勝・バイエルンからの王座奪還』に集約されていた。開幕戦の相手であるRBライプツィヒは進境著しい強敵だが、ここでつまずくわけにはいかない。ビッグクラブの誇りを胸に、ドイツ、そしてヨーロッパをも席巻する。そんな野心を抱くクラブの中で、香川真司が苦しんでいる。

 今夏のロシアワールドカップ、ラウンド16のベルギー戦で激闘を演じた末に敗れた日本代表の中で、ヨーロッパ各クラブに所属する選手たちは各国のシーズン日程を睨みながらつかの間の休息を取り、再びチームへと合流した。ドルトムントの香川はベルギー戦から22日後の7月25日に日本からドイツへ戻った。だが、チームはすでにアメリカ遠征を行った後でスイス合宿目前の時期でもあり、ルシアン・ファブレ新監督体制の中ではスタートから出遅れていた。その後、香川は親善試合で出場機会があったものの、公式戦初戦のDFBポカール(ドイツ・カップ戦)1回戦のグロイター・フュルト戦、そしてブンデスリーガ開幕戦のライプツィヒ戦でベンチ外となり、取り沙汰されていた他クラブへの移籍が秒読みとも言われていた。しかし結局、香川の移籍先として有力視されていたトルコのベジクタシュ、スペインのセビージャなどの移籍マーケット期間である9月1日を迎えても香川の去就は発表されなかった。したがって、9月21日まで移籍期間が設けられているポルトガルリーグなど、幾つかのクラブが彼を獲得できる可能性を残す中で、現状では香川のドルトムントへの残留が濃厚となっている。

 移籍期限終了目前の8月31日、ブンデスリーガ第2節・ハノーファー戦の試合前。ドルトムントのスポーツディレクターであるミヒャエル・ツォルク氏は、チームの主力だったMFヌーリ・シャヒンのブレーメン(ドイツ)移籍を発表した際に、「引き続き、他クラブと(移籍について)話し合いを行っている」と語った。選手名については明言を避けたが、主力級の選手に限れば香川、セバスチャン・ローデ、アレクサンダー・イサクらが放出候補と考えられ、この時点ではまだ、香川に移籍の可能性があったことを示している。また香川自身も先のライプツィヒ戦翌日の練習後に「(自分の去就については)神のみぞ知る」と話していて、去就に含みをもたせてもいた。

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厳しい香川の立場