ヤクルト・山田哲人 (c)朝日新聞社
ヤクルト・山田哲人 (c)朝日新聞社

 84年に及ぶプロ野球の歴史で、過去に10人しか達成していない記録がある。2015年にはユーキャン新語・流行語大賞の年間大賞にも選出された「トリプルスリー」、すなわち同一シーズンに打率3割、30本塁打、30盗塁をすべてクリアするというものだ。

 過去にこの大記録を達成した10人の中で、1人だけ2度成し遂げた選手がいる。それがヤクルトの山田哲人(26)だ。その山田は今シーズン、3度目の偉業に挑んでいる。

 8月27日現在、山田の成績は打率.320、30本塁打、29盗塁。トリプルスリー達成条件のうち本塁打は既にクリアし、盗塁も“王手”をかけている。打率は下がる可能性もあるが、ここまでの1試合平均3.73打数を残り33試合に当てはめると、今後123打数29安打(打率.236)でもシーズン打率3割をキープする計算になる。つまり、3度目のトリプルスリーはほぼ確実といっていい。

 大阪・履正社高からドラフト1位で11年にヤクルト入りした山田は、3年目の13年途中に正二塁手として定着。翌14年に日本人右打者では歴代最多となる年間193安打をマークすると、15年からは2年連続でトリプルスリーを達成するなど、右肩上がりの成長を続けてきた。

 ところが昨シーズンはチームでただ1人全143試合に出場したものの、打率.247、24本塁打、78打点、14盗塁は、初めて開幕からレギュラーとして出場した14年以降ではいずれも自己ワースト。チームも球団史上最悪の96敗を喫するなど屈辱的なシーズンになり、最終戦ではグラウンドを去る際に「やっぱ悔しいですね」と涙を浮かべた。

 その悔しさが今シーズンのバネになっていると言うのは、14年から一軍打撃コーチとして二人三脚で山田を育て上げてきた杉村繁コーチ(今季は巡回コーチ)である。

「去年はあれだけ負けて、自分も悔しい思いをして、今年は絶対に取り戻してやるっていう気持ちが(昨)秋のキャンプから見えてましたよ。『絶対に来年は打ってやる』っていうのが、行動に見えてましたね。そういう意味ではプロ意識がありますよ、あの子は」

 山田は侍ジャパンの一員として、16年オフにはメキシコ、オランダとの強化試合、そして17年春はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場。だから「昨年は十分な準備ができなくてシーズンに入った」と杉村コーチは指摘する。だが、屈辱のシーズンとなった昨オフは3年ぶりに秋季キャンプに参加し、ひたすらにバットを振りまくった。

「めちゃくちゃバットを振りましたよ。ティー(打撃)から全部含めたら、毎日1000(スイング)ぐらいは振りましたからね。今までは侍(ジャパン)があってできなかったじゃないですか? だから、秋のキャンプからできたっていうのは大きいですよ。しんどかったでしょうけど、死に物狂いでバットを振ったっていうのは間違いないですね」(杉村コーチ)

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「ああいう思いはしたくない」