東大教授・安冨歩さん(撮影・全国不登校新聞社)
東大教授・安冨歩さん(撮影・全国不登校新聞社)

 多くの学校で新学期が始まるこの時期に、子どもの自殺が増加している。生きづらさを感じている子どもたちに向けて全国不登校新聞社が今月出版した『学校に行きたくない君へ』(ポプラ社)には、不登校の当事者・経験者が、各界の著名人総勢20人から引き出した「生き方のヒント」が詰まっている。その中から、「自分は男性のフリをしている」との思いから2013年より「女性装」を始めた東京大学教授、安冨歩さんのメッセージを紹介する。

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――安冨さんは著書で「人は、自分自身でないもののフリをしているからつらくなるんだ」と指摘されています。なぜこのような指摘をされたのでしょうか?

安冨:「自分自身になる」というのは、いわゆる「自分探し」のことではないんです。「自分探し」はするだけムダです。なぜなら自分というのは原点みたいなものだから、それを探すっておかしいんです。「あなたは誰を探しているの? あなたでしょ」って(笑)。

 そもそも人は自分自身以外のものにはなれない。もうすでに自分自身なんです。でも多くの人は、想像力によって「自分じゃないもの」になりすましています。それをやめればいいだけなんです。しかし、これがなかなかやめられないんですよね。子どものときから「親」に仕込まれているから、やめたくてもやめられないんです。

 たいていの人は、現代社会のシステムに適応しているから「親」になれるんです。そしてシステムに適応している人が子どもを産むから、その子もシステムに適応させようと思う。たいていの場合、それが子どもの苦しむ原因です。不登校やひきこもりといった現象は、「親」から押しつけられたシステムに子どもが適応を拒絶して生じると考えています。

■戦っているのは私の"ポケモン"

――安冨さんも親からの抑圧があったんですか。

ありました。私の場合は、親が適応させようとしたシステムに見事にはまって、京都大学に行き、一流企業に就職しました。でも、京大に合格しても一流企業に就職しても、全然うれしくなかったんです。どうしても入りたかったのに、いざ合格したら「やれやれ」みたいな感じで。

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東大生も苦しむ「自分自身じゃないもののフリ」