7月に立ったスタンダップ・コメディーの舞台。がんの「おかげ」でできたことをお客さんに語りかけたのは、前回のコラムで書いた通りだ。前向き「過ぎる」とらえ方には「事態を正しく認識できない状態」との学術的な見方もあることにも舞台では短く触れた。

 だが、現在進行形の患者である私にとっては、心理学的に「正常」かどうかはさほど意味がないのだ。大切なのは、その時その時、前を向いて過ごすためにはどんな理屈がいいのか、ということだ。それはおそらく、読まれる方にも状況によって役立つように思う。

 みなさんにコラムを読んでいただくことが私の力になる。「肩を貸してください」と始めた連載も、9月で2年目に入る。抗がん剤の副作用が前ほどではなくても、相変わらずスマートフォン頼みの執筆は楽ではない。

 がんを患う新聞記者として、連載では、私の病気と地続きのことを書いてきた。肩を貸してくださったみなさんへの恩返しに、さらに刃物を強く自らにあてがい、削り出したいと、めぐる季節に願う。

著者プロフィールを見る
野上祐

野上祐

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、翌月手術。現在は闘病中

野上祐の記事一覧はこちら