留置場で樋田容疑者と一緒になったことがある男性はこう証言する。

「確か、窃盗容疑で捕まっていた。すごく調子がいいヤツで、刑務官にもハイと返事もいいんですよ。けど、実際に何かやるとなると、人の話をまったく聞いていない。常に髪をいじったり、指をまげて鳴らしたり、いつもイライラした様子で、落ち着きがないヤツでした」

 そしてこうも続ける。

「脱走、樋田と聞いた時に、あいつかとすぐにピンときましたよ。同じ留置場にいた時に、小さい窓があったのですが『ダイエットしたら、窓の隙間から外に出れるかな』『拘置所に移送される時ってトイレに行き逃げる機会があるか』『病気のふりして、外部で医者に診てもらったら逃げれるかな』とか言ってました。もちろん冗談だとおもって聞き流しましたが、マンガのルパン3世が好きなようで、『ルパンみたいに脱獄したらすごいでしょうね』とか言ってました。脱走願望を持っていたようですが、まさか本当にやるとは思わず、驚くばかりです。脱走後の自転車やバイクを盗み、ひったくりと用意周到に計画していたんじゃないですか」

 そんな樋田容疑者を大阪府警は、お盆返上で追いかけている。

 大阪の駅やコンビニなど、あちこちで樋田容疑者の「手配書」が貼られている。

 さらに立ち寄りそうなホテル、商店などに直接、協力を依頼する人海戦術も展開。

 だが、いずれも不発に終わっている。

「通報はよくあります。阪急電車のある駅で、帽子をかぶってマスクをしている男が怪しいと通報があり、駆け付けたらまったく別人。高槻市や大阪市、枚方市、もう数えきれないほど目撃情報はありますが、当たりはない。帽子にマスク姿だけで怪しいという通報もあります」(別の捜査関係者)

 実際に、パトカーで警戒に当たっている警官は、こう苦笑する。

「上の方から『なんとしても捕まえろ』『ガッツで捕まえろ』とすごいハッパはかかっているのですが、いかんせん精神論ばかりで、肝心の情報がない。赤い自転車と黒いミニバイクを盗んだとなっている。夜、警戒していて赤い自転車、黒いミニバイクを見たら、全部、怪しく見えてしまう。夢にまで、赤い自転車と黒いミニバイクが出てきますよ。市民から、山口県で行方不明になった2歳児を発見した、尾畠(春夫)さんにお願いしろと言われても黙って聞くしかなかった」

 果たして大阪府警は樋田容疑者を無事、確保できるのか?(今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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