一塁ベースまで数センチの差が明暗を分けたのが、2017年の準々決勝、大阪桐蔭vs仙台育英。

 1点を追う仙台育英は9回裏2死から5番・杉山拓海の中前安打と四球で一、二塁と最後の粘りを見せる。

 だが、次打者・若山壮樹は平凡な遊ゴロ。打球を処理したショート・泉口友汰がファースト・中川卓也に送球する。若山は必死にヘッドスライディングしたが、タイミングはアウト。これでゲームセットと思われた。

 ところが、中川が送球を受けた瞬間、一塁ベースをまたいでいたため、なんと、判定はセーフ(記録はエラー)。

 中川は「ベースを踏んでいたつもりが、しっかり見ていなくて……」と悔やんだが、このプレーが試合の流れを大きく変える。

 土壇場で生き返った仙台育英は、2死満塁から「自分が決めてやる」と強い気持ちで打席に立った途中出場の背番号16・馬目郁也が中越え二塁打を放ち、2対1と奇跡的な逆転サヨナラ勝ち。この瞬間、大阪桐蔭の春夏連覇の夢も消えた。

 わずか数センチの差に泣いた中川は新チームで主将となり、今春のセンバツでV2を達成。今夏は2年越しの春夏連覇の夢に挑んでいる。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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