東京ディズニーシーの人気アトラクション「タートル・トーク」。そこに登場するウミガメの「クラッシュ」とゲストとの間に、こんな会話が展開される。

「お前たち、最高だぜ!」
「うおー!」

 原田が好きだというそのやりとりが、平安の「勝利の儀式」になった。

 “変身した原田”は、甲子園でも変わらなかった。一回1死二塁から3番・松本渉(3年)が右越えの三塁打を放ち、わずか6球で先制点。原田は両手で4回拍手すると、生還した水谷祥平(2年)と右手でハイタッチ。グラウンドから見ると、一塁側ベンチの右端。定位置から原田は何度も拍手し、笑顔で声を上げ、大きなジェスチャーで指示を送った。

 ただ、優しい顔だけを見せているわけではない。試合前の準備に抜かりはない。原田は鳥取城北の試合のビデオを徹底的に分析し、140キロ台の直球と鋭いスライダーで小気味よい投球を見せる右腕・難波海斗(3年)が、走者を背負ってのセットポジションでクイック投球がうまくないことを早くから見抜いていた。

 モーションを起こしてから捕手のミットに投球が収まるまで、プロなら「1秒2」が二盗を阻止できるどうかの目安。ところが同点の9回、2死から水谷が四球で出塁すると、続く安井大貴(3年)の初球、一連の動作をストップウオッチで計測すると「1秒49」。高校生とはいえ、明らかに遅い。

「100%行けるなら、行け」

 原田は選手たちに告げていた。積極的に走れ。自信と冷静さ、勇気が必要なチャレンジを、原田は決してとがめない。2球目に水谷は二盗、さらに5球目には三盗を決めた。

 同点の9回2死で二盗を成功させることで、得点圏にサヨナラの走者がいる。それだけで、十分なプレッシャーが相手にはかかる。二走は打った瞬間にスタートを切れるから、ワンヒットでも生還の可能性は高い。無理して、リスクのある三盗をする必要はない。むしろ、動かない方がいい。安井の一打を、あるいは相手のミスを待てばいい場面だ。2年生の水谷は、その「野球のセオリー」も熟知はしていた。

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何か起こる予感…