外国人が多いためか、「先に来た人が優先」という日本では暗黙のルールを気にしない人もいるという。

「誰もが人より前に出て撮りたいのは当たり前でしょう。ただ、ベテランになればなるほどほんの隙間からでも撮れるのがわかるから、強引なことはしないんですけどね」

 山本さんが主宰する写真教室では、「人がレンズを向けている先に入らないように配慮する」「前を横切る時は声をかける」といった基本マナーは必ず教えているという。

 北海道の人気撮影スポットといえば富良野や美瑛だが、最近、十勝地方の大津海岸が注目を集めている。毎年1、2月ごろに十勝川河口の氷塊が砂浜に打ち上げられる自然現象が見られ、数年前に地元の写真家が「ジュエリーアイス」と命名して発表したのがきっかけで、多くの写真愛好家が集まるようになった。

「地元では有名な場所で、僕も10年ほど前から通っていました。でも毎日氷があるわけではありません」

 地元の観光協会がウェブサイトでジュエリーアイス情報を発信したり、トイレや駐車場を整備したりして、街おこしの一環として活用している。

「マナー違反ではないのですが、氷を何個も積み上げたり、間接照明のようにライトを氷に当てて撮ったりしている人がいて、不自然だなと思います。光を待つのが写真であって、月明かりで撮るとか、もう少し待って太陽の光と一緒に撮るとか、色の変化をとらえたほうが面白いと思うんですけどね」

 自分の撮影意図に合わせて、作為的な行動を取るのは、動物写真の撮影現場でもよくある話だという。

「フクロウは人気の被写体ですが、夜行性なので昼は寝ています。でも、目をパッチリ開けている写真を撮るために、大きな音を立てたり、石を投げたりして目を開かせようとする人がいるんです。本来であれば半日でも1日でも待つべきだし、昼間であっても時たま目を開けることはあります。でも、石を投げるような人は待つことすらできないんでしょうね」 

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自分の思いどおりにしたい写真家