小規模ブランドほど顧客離反率が大きいことを示した概念図。書籍内では70点ものデータを示した図表が並んでいる
小規模ブランドほど顧客離反率が大きいことを示した概念図。書籍内では70点ものデータを示した図表が並んでいる

 P&G、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンなど、成功企業のブランディングに影響を与えたマーケティングの名著『How Brands Grow:What Marketers Don’t Know』。コトラーなどのマーケティング主流派に異を唱え、新しい視点からマーケティングやブランドの育成方法を提案し、英国ではロングセラーとなっている本書が、『ブランディングの科学』として遂に日本で翻訳出版された。従来のマーケティング理論や常識を検証しているという本書の「すごさ」とはなにか──かつてP&Gに勤務し、本書を監訳した加藤巧に話をうかがった。

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 本書の特徴は、なんといっても、ともすれば理論が先行しがちなマーケティングにおいて、エビデンスに基づいた理論の実践の重要性を説いていることです。マーケティングはアート(感性)とサイエンス(科学)の両方が必要、あるいはそのバランスが重要だと語られることが多いのですが、アレンバーグ・バス研究所(EBI)で教授を務める本書の著者であるバイロン・シャープ氏のマーケティング理論は、一貫してエビデンスに基づいて科学的であることを何よりも大切にしている点において、他のマーケティング理論とは一線を画しています。

 巷にはブランディングの理論を説いた書物があふれています。そしてその多くがコトラーやアーカーなどの主流派の主張に沿っているのではないでしょうか? 本書の斬新さは、日本でも人気のそれらの主流派の主張に迎合することをせずに、新しい知見を提示していることです。たとえば、消費者をセグメント化し(Segmentation)、その中からターゲットを設定し(Targeting)、差別化されたポジショニング(Positioning)を築くということ(STP理論)が、きれいごとであると主張しています。一見、時代と逆行するようなマス・マーケティング(ただし、賢いマス・マーケティング)を提唱しています。

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