7月の世界水泳選手権で目標としていた記録にほど遠い結果しか残せなかったことで、池江の目が覚めた。

 目的、目標がハッキリすると、池江は強い。2017年のシーズン終了後からは、誰もが目を見張るほどに練習に打ち込んだ。自分が世界トップスイマーたちから劣っていると分析した下半身強化にも取り組み、キックやスタートの飛び出し、ターンの蹴り出しに力強さが生まれた。自信と勢いを取り戻した池江は、2018年シーズンに突入してからたった8カ月の間に日本記録を15回も更新し、女子のエースとして大きく成長したのである。

 パンパシ水泳で、エース池江のライバルとなるのは、まさに世界一の選手たちばかり。

 自由形では、幾度となく世界一、世界記録を更新し続けているオーストラリアのケート・キャンベルに、アメリカのリオ五輪金メダリストのマニュエル・マニュエル、同世代スイマーのカナダのテイラー・ラックと、世界大会メダリストたちが顔を揃える。記録的には彼女らに遅れをとっているが、まだ世界水泳選手権でも自由形では決勝に残ったことがない池江にとって、彼女らとともに泳ぐことは大きな経験となることだろう。今大会で勝つ、というよりは、来年の世界水泳選手権、そして2020年東京五輪で戦うための第一歩を踏み出してほしいところだ。

 バタフライはライバルの数がグッと減るものの、オーストラリアのエマ・マッキーオンという、昨年の世界水泳選手権の100mバタフライ銀メダリストという強力なライバルがいる。マッキーオンのベストは56秒18と池江を上回っているが、自己ベスト、つまり日本記録を更新できれば勝負ができる。むしろ、バタフライでは“戦った”経験ではなく、“勝った”経験を積んでもらいたい。

「まずは自分のやるべきことをしっかりやって、いちばん良い色のメダルを獲得したいと思います」

 大会開幕直前の8月4日、六本木ヒルズアリーナステージで行われたパンパシ水泳壮行会で、池江は笑顔でこう話した。

 その表情には、自信と希望に満ちあふれている。その目には、『世界一』しか見えていない。日本記録を連発した日本選手権で『ホップ』、5月、6月でさらに日本記録を更新して『ステップ』までは踏めた。あとは明日からスタートするパンパシ水泳で、世界に『ジャンプ』するだけだ。18歳の池江が世界一の称号を手にして、その名を世界中に知らしめるその瞬間を見逃すわけにはいけない。(文・田坂友暁)