うちの子はいま、高校を卒業し、東京の会社で就職しています。先生は私の主治医になってくれ、生活費は養育費でまかなっています。

――これまでのことをふり返って、ひきこもった根本的な理由はどこにあると思いますか?

 誰からも「あなたはあなたでいいんだ」と伝えてもらえず、自己肯定感がなかったことです。私も発達障害です。でも私が生まれたころには発達障害という概念はなく、周囲からは「ヘンな子」だと言われ、親からは「恥をかかせるな」としか言われませんでした。母とは血が繋がっていますが、母から愛はもらっていません。

 だから私は苦しくても会社にいたんです。小さいころからから周囲に否定され、自己否定感しか育たなかったから、いじめを受けても「ここでがんばらなきゃ」としか思えなかったんです。

 自己肯定感があれば「根拠はないけど私は大丈夫、他の場所でもきっとやれる」と思い、早めにSOSをあげられました。

 ひきこもったのは必然です。私がどんな道を通っていても、ひきこもっていたと思います。

――「これがあれば変わっていた」と思うことはありますか?

 ひとりでもいいので理解者に出会えればちがったと思っています。「あなたはあなたでいいんだ」と心から伝えてくれる人がいたら、と。

 私は先生との出会いを通して、一人だけでも理解者がいれば変わることは実感しています。あるいは、私と同じような立場の人であれば、林恭子さんたちが開く「ひきこもりUX女子会」ですね。同じ境遇の人と共感しあえることでも気持ちは楽になりますし、私自身も女子会へ行って気持ちが救われました。

――ありがとうございました。(聞き手・石井志昂)

■リョウコさん(仮名)の略歴
 45歳・女性。北海道生まれ。高校を卒業後、大手建設会社に勤務。社内いじめを受ける。24歳で結婚。25歳で退職しひきこもり。27歳で第一子を出産。ひきこもり期間は25歳から現在に至るまでの21年間

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石井志昂

石井志昂

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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