■宇野昌磨など他の選手への影響は?

 一方、平昌五輪で銀メダルを獲得した宇野は、「自分がやれることをやらないというのは、好きじゃない」と、五輪シーズンも信条である「攻める」姿勢を貫いた。昨夏には「ジャンプがよりきれいに跳べるように、というのは次の段階だと考えている。今はただ跳ぶことで必死です」とコメントしている。その姿勢が実った結果が平昌での銀メダルだったといえるが、今季については「跳べているジャンプを確率良く、きれいに跳べるようにしたい」と語っており、宇野自身が語った「次の段階」に入るのかもしれない。五輪のメダリストとなった宇野が自身の成長過程と新ルールをうまく一致させられれば、今季も楽しみになってくる。

 昨季の世界選手権に繰り上がりで出場し5位に入った期待の若手、友野一希は「新しいルールは、すごく質が問われる」と受け止めている。4回転が増えるのか減るのかについては「多分それは選手次第だと思う」と話した。

 さらに「すごくリスクも出てきますし、自信がないとたくさんの4回転を跳ぶのは難しいルールになっている。いい意味で選手の個性が出るようなルールかなと思う。完成度で勝負したい選手もいれば、リスクを承知で4回転をたくさん跳ぶ選手もいると思います」と新ルールについて述べている。

 昨季の世界選手権、フリーで6本の4回転ジャンプを跳んで優勝し、羽生、宇野らのライバルとなるネイサン・チェン(アメリカ)は、4回転の本数では世界トップに位置する選手だ。ただ、シニアでは高難度のジャンプで上り詰めた印象のあるチェンだが、ジュニアの頃は「踊る」能力が目立っていたスケーターでもある。今夏もアイスショーで披露して大歓声を浴びている昨季のショートプログラム『ネメシス』では切れ味鋭い表現で魅せており、宇野同様チェンも次のステップに進みつつあるといえる。何よりクレバーなスケーターでもあり、新ルールにもうまく合わせてくるだろう。

 高難度の4回転に挑む選手たちの姿勢はアスリートのあるべき姿を体現するものだが、怪我が多発し、場合によっては演技の完成度はないがしろにされていた。ジャンプだけが突出している演技はよしとされず、全体の完成度が高いプログラムが評価されるのがフィギュアスケートで、それが難しさでもありよさでもある。

 ルール改正はフィギュアスケートを理想のかたちに近づけるためのものであり、スケーターはその中でさらに高みを追求していくだろう。(文・沢田聡子)

●プロフィール
沢田聡子
1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」