最近は、都心の高級ホテルに宿泊するというリゾート体験も一般的になってきました。これはアクティビティの部分を減らして、一緒にいることを重視するプランと言えるでしょう。

 冒頭の美緒さん夫婦では、美緒さんが(1)を志向して、夫は(2)を志向しているように見えます。妻はあれを見たい、こんな体験をしたいというモチベーションが高いですが、夫は妻がご機嫌で、結果、自分に優しい状態で一緒にいてくれればいいというモチベーションです。なので行き先は、妻の機嫌が良くなるところなら本当にどこでもいいのです。

 ただ、その態度は美緒さんからすると、自分と一緒に行く旅行に興味がないんだろう、それは私なんかといっても楽しくない、つまり私に興味がないのだろう、という邪推になってしまいます。困ったことに、邪推も繰り返すと真実だと感じるようになってしまいます。

 一方、夫は、一緒にいる穏やかな時間を持ちたいだけで、大げさにいえば旅行は方便なので、なんでもいいわけです。そして、多少旅行に対して意見を言ったところで、妻のほうが圧倒的な情報量を誇りますから、すぐダメだしされてしまいます。結局、言っても無駄だし、そもそも行く場所にはそんなに思い入れがないし、という受身モードになってしまいます。

 辰則さんの場合は逆で、辰則さんは(妻を喜ばせるための)アクティビティ重視で、妻はのんびり一緒にいられれば幸せなわけです。

 ところで、もう一段階深掘りすると、もうひとつの切り口があります。旅行の「プラン」と「実行」の段階でも目的が違うのです。

 美緒さんの場合は、実行時はアクティビティ重視ですが、実はプラン段階の気持ちとしては一緒にやりたい、一緒にプランを立てたいようなのです。しかし「一緒に決める」というのは、実はものすごく難しいことです。上のようなやり取りがあったりして、結局美緒さんが決めることになってしまいます。そうすると、一緒に決めた感がないうえに、夫にはアクティビティ自体にはモチベーションがないので、美緒さんの"一人芝居”感が高まってしまうのです。

 辰則さんの場合も、計画も実行も一人芝居なので、やはり気持ちが満たされないのです。

 もし、一緒に行く旅行に何か違和感があるのなら、それぞれが、(1)アクティビティ、(2)一緒にいることにどの程度の重みを置いているのか、振り返ってみて、話し合ってみるのがいいと思います。(文/西澤寿樹)

※事例は事実をもとに再構成してあります

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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