旅行に対する思い入れは妻のほうが大きく、それは情報量に現れます。妻のほうが圧倒的に調べているので、夫がちょっとした希望を言っても、かなうはずがありません。それはF-1レースで300kmで走ってくるトップの車に、周回遅れでスタートするようなものなのです。

 逆のケースもあります。夫婦ともにバリバリのキャリアで仕事をしている辰則さん(仮名、40代)夫婦の場合は、夫が妻(40代)を楽しませるために企画をするのです。辰則さんは、妻の好みを考えて、妻が喜びそうなところ、好きそうな企画を盛り込んだ入念な計画を立てます。

 しかし営業職の妻は、日ごろのハードワークのせいもあり、ドライブに行っても助手席で寝込んだり、旅先では朝寝坊するので大体、夫の計画通りに旅程が進みません。一方で、駅前の土産物屋で、ご当地キットカットなどを買って楽しそうにしているのをみると、「キットカットに負けた」と思ってしまいます。

 そういうことが何度もあって、ついに思いあまって

「おれと旅行に行っても楽しくないなら、一緒に行って楽しい奴と行けよ!」

と言いました。

 妻は「え?どういうこと?」と絶句してしまいました。

 家族や夫婦の旅行は、大きく2つの目的があると思います。

 わかりやすいのは、(1)一般に旅行の目的と考えられている、非日常の体験(アクティビティ)を楽しむことです。しかし、旅行の目的はそれだけではなくて、(2)日常を遮断することで、同行者と一緒にいること自体を楽しむという面もあります。

 旅行の計画を立てるとき、どこに行こうか、何をしようかと、前者に焦点を当てて考えがちですが、後者も重要な要素です。究極にアクティビティ重視なら、一人旅でよいはずです。

 常日頃、一緒にいること自体を楽しむことが充足しているなら、(1)アクティビティに意識を集中してもいいのかもしれませんが、逆に、日常では一緒にいることを楽しむことが足りていないなら、(2)一緒にいることを主目的にするのが賢明かもしれません。

次のページ
旅の“一人芝居”感の背景 「プラン」と「実行」でも目的違う