では、愛情たっぷりに育てればよいのかというと、必ずしもそうではありません。愛情漬けが自立心を奪ってしまうこともあります。もう一人、拙著でも紹介した、別の子どもの話をします。

 その子がうちに来たのは高校1年生のとき。問題を解かせようにも、30秒もしないうちに目がうつろになって、「空想のお花畑」にでかけてしまい、勉強どころではありませんでした。この子も、小さい頃の様子をお母さんに尋ねてみました。

 その子はおばあちゃんに溺愛され、5歳になっても口元まで食事を運ばれる始末でした。「それは危ない、おばあちゃんがやったげる」「ほら上手にできないでしょ、おばあちゃんがやったげる」。そんなふうに、着替えから何から、おばあちゃんが全部世話してあげていたそうです。

 自分でやってみたくても全部おばあちゃんに先回りされてしまうので、おばあちゃんが手を出せない世界、つまり想像の世界で楽しむクセがついてしまったようです。

「タマシイ飛ばし」と私たちが呼んでいたこの状態は、いわゆるイヤイヤ期に、愛情で先回りし、本人が自分でやってみたい、自分の力を試してみたいというチャンスを全部握りつぶしてしまった結果、自力で課題を克服することを諦めてしまうことで出現した症状のようです。

 第一次反抗期は、「第一次自立期」とでも呼んだ方がよいように思います。この時期、「すさまじい」という表現がぴったりの集中力で、興味を持ったことを自分で成し遂げようとします。ご飯を自分で、服を自分で、階段を自分で。「できない!」と悔しがったり、泣き喚いたり。でも手を出されるのはイヤ。すさまじい集中力、能動性、主体性です。

 将棋界の新星、藤井聡太七段が子どもの頃、負けた悔しさで泣きじゃくる映像を拝見したことがあります。そんなに悔しがらなくても、というくらい。将棋へのすさまじいまでの執念を感じます。これ、似ていませんか? 藤井七段と同じくらい、イヤイヤ期の子どもは何かを成し遂げたいと願っています。強烈な自主性が前面に出ているこの時期は、自分の力で課題を解決する力を養う絶好の時間です。

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親はどう対応したらいいのだろうか?