市江氏が社長となり、知り合いから聞く声は「スカイマークはよく遅れる!」というものだった。

「ビジネス客は普通運賃で乗ってくれるが、遅れる飛行機には乗ってくれません。結局、安売りをして席を埋めなくてはなりません。これでは収益力はよくなりません」(市江社長)

 経営再建には定時運航率を上げ、ビジネス客を取り込み、収益性を上げるということが至上命題だったのだ。

 取り組みが始まったのが2016年10月。市江社長を本部長とする「定時性対策本部」がつくられ、整備、空港、客室乗務員、パイロットなどの関連部署が集まった。それまでも各部署がそれぞれに定時運航に取り組んではいたが、会社全体の活動にはなっていなかった。

 定時運航には様々な部署の連携が必須だ。客をできるだけ早く機内に誘導しなければいけないが、整備の完了前に誘導はできない。整備が終わり、パイロットが飛行機を外から最終点検して、コックピットに入らないと客は機内に入れない。例えば、整備が終わっているのに、パイロットと運航管理部との気象条件や航路などの確認、打ち合わせが長引けば、客は待合室で待たされる。

 チェックインカウンターや搭乗ゲート周辺で働くスタッフとの連携も大切だ。スカイマークのシステムはANAやJALのように保安検査場を客が通ったかどうかをリアルタイムで知ることはできない。そのため出発時刻の20分前になってもチェックインをしていなかったり、15分前に保安検査場を通っていなかったりする客に対して、「〇〇便のお客様はいらしゃいませんか」と地上スタッフが客の列に向かって叫ぶ必要がある。

 経営再建中でコンピューター投資に多くのお金をかけることはできない。そのハンディを地上スタッフが走り、叫んで補っているのだ。そんな光景を見ていると、サービス向上とはお金や設備の豊富さが決めるのではないとよく分かる。

 定時運航の実現には、地上スタッフ、整備担当者、客室乗務員、パイロットなどすべてのスタッフが、それぞれの場所で一工夫し、それぞれに連携しなければならなかったのだ。

 市江社長は振り返る。

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ANAやJALに比べて小さな会社だからできたこと