西田さんは自身の吉宗観を次のように語っている。

「ご存知のとおり吉宗は徳川幕府の八代将軍で、緊縮財政をうちだし藩政改革に功績のあった人です。八代将軍の地位についたのが33歳。吉宗の政治方針は、“倹約励行”“文武奨励”“風俗粛清”で、家康に似た頑固な性格でした。すでに松平健さんの『暴れん坊将軍』が何年も前から放送され人気をほこっていましたが、あちらは典型的なエンターテインメント時代劇、史実から大きくはみ出て、将軍がおしのびで江戸の街にでて悪をこらしめるーーといったものです。しかし大河ドラマは視聴者の多くに『歴史的事実』として受け止められているので、史実から大きく外れることはできません。脚本のジェームス三木さんは史実に沿いながら、エンターテインメント時代劇として楽しく見られるように工夫をこらしていましたね」

 高沢裕之チーフ・プロデューサーも、“松平吉宗”と“西田吉宗”の違いを強調するために工夫をこらした。「政治家としてのスケールも人間としての器量も大きい吉宗を演じられるのは、演技の幅が広い西田さん以外にありえない」と西田さんにスケールの大きい芝居を求めた。

「脚本を読んだとたん、イメージがひろがりました。そうか東映の時代劇のノリでやればいいんだなと。吉宗は爛熟した元禄時代のうねりを背負って、質実剛健な改革を断行するんですね。エンターテインメントであると同時に、人間ドラマとしての期待にも応えられる心づもりで収録にのぞみました」

「八代将軍 吉宗」を成功させたいと頑張るスタッフについては「とにかく皆一生懸命でした。近松門左衛門(江守徹)が案内役で、江戸時代の華やかな部分をバックとして描いていくという面白いアイディアもそんなスタッフの頑張りから生まれたのだと思います」

 その甲斐あって平均視聴率は26.4パーセント。「八代将軍 吉宗」は大河継続の役割を果たしたのだ。(植草信和)

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植草信和

植草信和

植草信和(うえくさ・のぶかず)/1949年、千葉県市川市生まれ。キネマ旬報社に入社し、1991年に同誌編集長。退社後2006年、映画製作・配給会社「太秦株式会社」設立。現在は非常勤顧問。

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