これが「むずむず脚症候群」という病気だとわかるのは、手術後の入院を翌1月にいったん終え、自宅に戻ってネットで検索してからだ。

 かわいらしいのは名前だけ。初めて訪れた病院では名前が呼ばれるのを座って待っていられず、受付の声が届く範囲をぐるぐる歩き続けた。周りの視線にふと思った。まるでおりの中の動物じゃないか。

 それで文章を書けるはずもない。2カ月前のことを取り上げたコラムを1月に載せてから次までは、3カ月間空いた。「インプットがない。自分はカスカスです」。先輩にぼやいたのはこのころだ。

  ◇
 根治はしない。そこは理解してほしい――。そう言われたのは2度目の手術後だ。さらに言えば、私のがんは共存・共生を望めそうなものでもない。

 もしも知り合いからがんについてアドバイスを求められたら、現在進行形の患者として何を伝えるだろうか。真剣に考えるほど、ごく月並みなことしか頭に浮かんでこない。

「信頼できるお医者さんや看護師さんに体や心の状態を丁寧に説明し、これからどうするか、よく相談してください」

 その相手をどう見つけるかはこの際さておく。主治医でも、セカンドオピニオンを求める医師でも、大切なのは多くの患者に接した人と話すことだ。

 性格やそれまでの生き方と同じく、体の具合は人によってさまざまだ。似た症状に同じ治療をしても効果は違う。「風邪にはなんとか」という風邪薬のテレビCMのように、これにはこれ、というコツやノウハウはないと考えたほうがいい。「闘病記は1冊は読んでいい」と以前書いたように、過去にがんと付き合った誰かの体験談から一通りの流れを知り、心の平穏を得るのは構わない。ただ、多くは自分の例しかわからないのだから、治療や生活の参考にするやり方はよく考えて――と。

 私は「むずむず」がネットで見つかってすぐ、医師をしている中高の先輩に相談した。そのアドバイスで病院を訪れ、一部の飲み薬を別のものに換えるとともに、そのための薬を処方してもらった。途端に症状はうそのように消えた。

  ◇
 しかし、専門家に相談すれば解決するとも限らない。中には症状と見なされず、自力でどうにかするしかない場合もある。

 私の場合、「読めない」は先ほどの先輩や主治医に話したものの、がんとの関係も含め、はっきりしたことはわからなかった。

 だが放っておくわけにもいかない。

次のページ
「読めない」状態を脱するためにしたこと…