2016年の岡山県大会決勝、玉野光南を破って優勝を決め、喜ぶ創志学園の選手 (c)朝日新聞社
2016年の岡山県大会決勝、玉野光南を破って優勝を決め、喜ぶ創志学園の選手 (c)朝日新聞社

 今年も各地で地方予選が行われ、夢の甲子園出場への切符を掴んだ高校が続々と決まっているが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、夏の選手権大会の予選で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「命拾いしました編」だ。

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 本塁上のタッチプレーの際にボールが2つに増えるハプニングが起きたのが、2013年奈良県大会3回戦、天理vs奈良大付。

 1回裏、奈良大付は2死一、二塁のピンチを迎えた直後、エース・久保秀平が暴投。捕手・西辻理誠はボールを後逸した。

 直後、まさかのハプニングが起きる。ボールを追おうとした西辻が振り返った際に球審と交錯すると、なんとボール袋の中から予備のボールがポロリ。後逸したボールはすでにバックネット裏を転々としていたのだが、状況が状況だけに目の前にあるボールをそれと勘違いするのも無理はない。無我夢中で予備のボールを手に取り、二塁から本塁を突いた走者・東原匡志にタッチした。タイミングはアウトだったが、ボールが違うのだから、当然アウトにはならない。県高野連関係者も「記憶にない」という珍事に、審判たちもどう判定すべきか、首を捻ったのは言うまでもない。

 公認野球規則9.01の「審判員は、本規則に明確に規定されていない事項に関しては、自己の裁量に基づいて裁定を下す権能が与えられている」に則り、協議した結果、天理の得点は認められず、テイク・ワン・ベースの2死二、三塁で試合再開。天理・橋本武徳監督は「インプレーだったら、2点(先制)だったかもしれない」と残念がった。

 一方、勘違いをしたのに、結果的に先制点を阻止し、“命拾い”した形となった奈良大付バッテリーは、このピンチを無失点で切り抜ける。これで試合の流れは奈良大付に。

 2回に先取点を貰った久保は、追いつ追われつのシーソーゲームのなか、天理打線を6回まで3失点に抑え、7回からリリーフした田中雄太朗も3回を1失点と好投。両投手の踏ん張りに奮起した打線も、9回に一挙7点を援護し、12対4で大勝した。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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