塚崎 いまやカメラの性能が格段に上がっていますから、遠くにあるタワーマンションのベランダだって撮ろうと思えば撮れますからね。

三平 性能の向上もさることながら、今は誰でもスマートフォンというカメラを持っています。

塚崎 いつどこで撮られているかわからない、監視カメラみたいなものですよね。

佐々木 よくスナップ撮影で「無断で撮られた!」と怒る人がいますけど、街中に設置された監視カメラの存在は気にならないんでしょうかね。

大西 僕は、80年代に台頭した写真週刊誌の影響が大きいと思っています。対象は一般の人ではなく、有名人ですが、密会現場などを隠し撮りされ、暴かれるわけです。そんな写真を目の当たりにしていると、自分はタレントでもなんでもないけど、街のどこかにカメラの目があって、自分も暴かれるかもしれないという意識が刷り込まれてきたんじゃないかと思うんです。時代の変遷によって、一般の人たちの不安感が大きくなっていったのではないでしょうか。

佐々木 コスプレ準備中の写真もそうですけど、盗撮騒ぎって、実は撮られた本人よりも、周囲が「盗撮だ」と過剰反応することが多いのですが、これは、自分も勝手に撮られるかもしれないという潜在的な不安があるからかもしれないですね。

大西 写真学校の実習の一つにスナップ撮影がよくありますが、最近の学生を見ていると、完全に引いていますね。リスクが大きいですし、悩まずに撮れる対象でいいやと彼らが思うのも無理はない。

三平 まさに萎縮ですよね。大西それもありますが、人の暮らしや社会の動きへの興味がなくなっているんです。

塚崎 いま誰かが撮らないと、この時代の情景が未来へと引き継がれなくなってしまうわけですから、その状況に危うさを感じます。

大西 そこに肖像権や盗撮といった問題がのしかかるわけですから、若くして写真をやろうという人はがんじがらめになり、ますます撮れなくなってしまう。かつてスナップショットの基本は出合い頭という考え方があったのですが、昔のやり方だけでは通用しなくなっています。人と相対して撮っていた頃から、時代の変遷を経て、街がどんどん遠ざかっていくような印象があります。カメラや人との距離をどう調整していくか、時代との駆け引きをより求められているように感じます。

佐々木 このテーマを論じていていつも思うのが、現状をリアルに伝えれば伝えるほど、萎縮が進むんじゃないかということ。かといって、何でもありというわけにもいかず、さじ加減の難しさを痛感しています。でも、悩みながらもシャッターを切り続けることで、見えてくるものもあるはずです。これからも本誌を通じて問題提起を続けていきたいと思っています。

【座談会メンバー】
◯大西みつぐ(おおにし・みつぐ)
写真家。第22回太陽賞、第18回木村伊兵衛写真賞を受賞。日本写真協会会員、大阪芸術大学客員教授、ニッコールクラブ顧問。

◯三平聡史(みひら・さとし)
みずほ中央法律事務所代表弁護士。同事務所のホームページでも撮影と法律に関するコラムを執筆している。

◯塚崎秀雄(つかざき・ひでお)
日本最大級の写真投稿SNS「東京カメラ部」を運営。東京カメラ部株式会社代表取締役社長。

◯佐々木広人(ささき・ひろと)
2014年4月からアサヒカメラ編集長。

(構成/吉川明子)

※アサヒカメラ特別編集『写真好きのための法律&マナー』から抜粋