想定以上の大きな被害をもたらした西日本豪雨。死者は220人を超え、現在でも行方不明者捜索が続いている。関西大学社会安全学部特任教授の河田惠昭氏は、著書『日本水没』(朝日新書)で、国難級の災害となりうる豪雨の恐ろしさと、国がおこなうべき対策を指摘した。内容を一部お届けする。

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■豪雨と首都直下型地震が同時に起きたら…

 首都直下地震の想定犠牲者数は2万3千人と少ない。これは、火災と住宅の全壊・倒壊による犠牲者だけである。しかし、21年前の阪神・淡路大震災では、震度6弱以上の地域に住んでいた住民の0.17%が死亡した。首都圏に当てはめると、平日のビジネスアワーでは5万7千人に達する。

 地震が朝のラッシュアワーに起これば、こんな数字で収まるわけがない。だが正確な評価方法がわからないので、ラッシュアワー時の死者を算入していない。犠牲者はゼロと仮定している。政府・中央防災会議は被害全体を過小評価していると断言できる。

 それだけではない。東京湾の高潮、利根川や荒川の洪水氾濫が起これば、複合災害になることは明らかである。しかも、歴史はそれが絵空事でないことを教えてくれている。

■お粗末な日本の災害対策。問題は指揮命令系統

 ところが、これらの「国難」災害を迎える準備がまったくできていない。日本では戦争に対して25万6千人の自衛隊が、火災に対して合計103万9千人の常備消防署員と消防団員が、交通事故に対して25万2千人の警察官が配置されている。

 しかし、指揮系統はお粗末のひとことに尽きる。米国では、消防署員、警察官、州兵が対応する。それらを州知事が一括統御する仕組みになっている。ところが世界第1位の災害大国であるわが国では、都道府県知事にはなんの権限もない。東京都知事は例外で、東京消防庁、警視庁の形の上のトップであるが、指揮命令したことがない。自衛隊も動かせない。中央集権国家であるわが国では、連邦国家である米国のようなわけにはいかないのだ。

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