●現在の「評価基準」は中小規模サイトに有利?

 中小規模サイトで対策ができているサイトがなくても、大規模サイトは2011年より前から研究し、潤沢な予算で対策してきているのだからチャンスはないのではないか。鈴木さんにそんな疑問を投げかけてみると、笑顔で大丈夫だと回答が返ってきた。

「たとえば、Amazonは日本向けサービスだけでも、2018年6月28日時点、6420万件ものページがGoogleにインデックス化されており、その扱う商材は、本や家電からファッション、食品まで幅広い分野を網羅しています。もし、すべてのWebサイトが一般的にSEO対策で重要とされるサイトの規模や知名度、利用者数、更新頻度などだけで評価されるのなら、扱うすべての分野でAmazonが検索結果の上位を独占してしまうでしょう。しかし現実は、さまざまなキーワードにおいてAmazonは必ずしも1番ではなく、中小規模サイトに負けているシーンも多々あります」

 ECサイトでいえば、Amazonや楽天。グルメサイトで言えば食べログやぐるなび、ホットペッパーグルメなど、それぞれの分野には知名度が高く巨大なサイトがある。もし、何の分野でも検索結果が前述のような誰もが知っている大規模サイトだけで占められる画一化した検索結果なら、それは検索エンジンが目指す「利用者が求めるもの」とは違っているのではないか。

「検索エンジンの提供する大きな価値の1つは、利用者を新しい有益な情報に導くこと、新しい出会いにあります。そのために、大規模サイトだけが高い順位を独占することのないよう、中小規模サイトも高い順位が取れる評価基準が用意されているのです。ですから、まだ多くの中小規模サイトで対策が実現できていない今は、チャンスが残っていると言えるのです」

●SEO対策は中小企業の大きな力になる!

 それでは、実際にSEO対策を実行する際には何に注意したらよいのか。鈴木さんにアドバイスを伺うと、「SEO対策すると、楽勝でお客さんが集まってくるんだよね?」といった考え方には注意が必要だとのことだ。

「SEO業界は、長い間、検索エンジンを欺く手法を探求してきたため、お金を稼ぐ大事なネタであり、公開すると検索エンジンに対応されより早く効果を失ってしまう可能性がある方法論は隠しておくという文化が根付いています。結果として、SEO対策を努力せずに集客を実現する魔法のような手法と勘違いしている利用者の中には、SEO業界のサービスは内容がわからないのが当たり前と思っている人も多く、そこに劣悪なサービスがはびこってきた一因があります。魔法のような効果を期待して、すでに効果がなくなってきている裏ワザを採用することはおすすめできないのはもちろん、特に、中小規模のWebサイトで成果を上げられる手法を確立している業者があまりいない現状では、しっかりと内容を精査しないでサービスを選択するのは、非常にリスクがあります」

 内容もわからずサービスを選択した結果、SEO対策やWebサイトに嫌気がさして、ネット上での集客をあきらめてWebサイトの運営じたいを止める中小企業が増えているというのが鈴木さんの実感だ。経済産業省の2017年調べによれば、電子商取引(ネットを利用した調達・販売)を実施している企業は、資本金50億円以上では約72%、資本金3000万円未満では約40%にとどまっている。

「大企業のように広告を出せない中小企業がどうやったら集客できるのか、自分たちの商品をアピールできるのかというとき、自社のWebサイト、そしてSEO対策は大きな武器になるはずです。それなのに十分に活用できずにいる。そうした不幸な状況を打開する一助になればと、中小規模のWebサイト運営者にも役立つ『Webプロジェクトを成功に導く 戦略的SEO思考』を上梓したわけです」

 Webサイトの運営は業者任せでは決して成功しないというのが鈴木さんからの重要なメッセージだ。裏返せば、技術的専門知識のない担当者でも「正しい戦略」さえ理解していれば自社サイトを大成功に導けるということ。「Webサイトは本来、たとえば地方のシャッター街にある店舗でも全国規模、いや世界規模の集客にチャレンジできる素晴らしいテクノロジー」と鈴木さんが言うとおり、Webサイトの活用をあきらめるのはあまりにもったいない。そして担当者の理解が進むことで、悪質な業者も早晩消えていくに違いない。

(※1)WELQというWebサイトで、健康・医療という人の命に関わる分野における根拠のない記事が流布されていたことに端を発し、著作権違反なども相まって謝罪会見が開かれ、最終的には関連するサービスを含めた複数サイトの閉鎖にまで発展。現在はサービスを停止している。