「大丈夫ですよー」

「便意が来たのでトイレに……」

「便意じゃないですよ、赤ちゃんです」

「いや、これは便意だと思います」

「違いますよ、赤ちゃんです」

 なぜだろう、このやり取りははっきり覚えている。

 脳はデリートする必要なしと判断したらしい。

 結局、看護師さんは正しかった。

 赤ちゃんが押し出されて来た。

「頭が見えて来ましたよー」

 看護師さんの言葉に、やっとゴールが見えてきた。

 折れかけた心を立て直す。

 ここからは「いきんでー」と言われたり、「いきまないで!」と言われたり、「リラックスして!」と言われたり、

「息を止めないで!」

「吸ってー」

「いきんで!」

「いきまないで!」

「ええい、私をどうしたいの!?」

 もう言われるままに必死にやった。

 頭が見えてから5分くらい経っただろうか。

「もう頭が出ますよ」

 と言われたと思ったら、

 スポーン

 と一気に赤ちゃんが飛び出した。

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赤ちゃんを見た第一声が「やだ!」だった理由とは…