■芝で掴んだ“自信”とサーブの“好感触”

「良い練習が出来ているので、自信はつきつつあります」

 ウィンブルドン開幕前週の錦織は、この言葉を幾度か口にしていた。それと同時に「良い試合をどんどんこなさないと、自信はついてこない」とも言ったが、開幕前のエキシビションマッチでビッグサーバーのケビン・アンダーソンに快勝したこと、そして本戦では初戦と2回戦ともに予選上がりやラッキールーザーと当たるなど、戦いながら状態を上向きにできるドロー運にも今回は恵まれたかもしれない。特に、サーブの改善は顕著で、2回戦のバーナード・トミック戦では24本のエースを奪い、3回戦のニック・キリオス戦では70%の高いファーストサーブ成功率を記録していた。

 初のベスト8入りを果たしたウィンブルドンを終えた時、錦織は「サーブが良くなってきているのと、芝で自分のテニスを少し見つけ出せたこと」の2点を、大きな収穫として挙げた。そして、頼もしかったのが、「ベスト8は当たり前というか、そんなに思いはない」の一言。手首のケガにより戦線離脱し、ランキング的には28位で今大会を迎えてはいたが、彼の心と身体は既に、グランドスラムのベスト8を「当たり前」と捉える位置まで戻っていたようだ。

 昨年8月に戦線離脱した錦織には、この先、失効するランキングポイントがほとんどない。失う物のない強みでシーズン後半戦に向かっていけるのは、精神的にも大きな強みとなるだろう。同時に現時点での錦織は、年間レース上位8名が出場できる“ATPツアーファイナルズ”の席を目指している。「そこ(上位8名)に食い込むためにも、自然とハードコートの結果は必要になる。この結果をバネに、食い込めるところまで行きたいです」と、見定める地点は明確だ。

 周囲が「日本人として23年ぶり」と騒いだベスト8の結果をも、彼は「バネにしたい」と言った。

 芝で掴んだ自信とサーブの好感触を手のひらに残し、敗戦から持ち帰った課題を糧として、ホームである北米のハードコートへと乗り込んでいく。(文・内田暁)