ちなみにメディアの取材現場でも、「個人情報の保護」を盾に取材拒否されるケースが多発している。報道目的の場合、報道機関は同法の適用除外であることを知らない人も多い。しかし、こうした問題がなぜ頻発するのだろうか。

「個人情報の保護が、『肖像権の侵害』や『プライバシー権の保護』と混同されているからではないでしょうか?

 プライバシー侵害の3要件は『私生活上の事実または、事実らしいと受け取られる情報であること』『一般的に本人の判断からして、公開してほしくない情報であること』『一般の人には、まだ知られていない情報であること』を本人の許可なく公開することですから、顔写真の撮影や発表自体はそれに当たりません」(同)

 このように、顔写真と個人情報を取り巻く環境を改めて整理してみると、法律の理解不足が根底にあることが見えてくる。法律違反を過度に恐れる先にあるものは、行きすぎた自主規制や萎縮である。

「たとえば学校で子どもたちを保護するために、学校行事での撮影を禁止したとします。学校には施設管理権があるため、撮影の可否などを自由に設定することができます。でも、そのことによって保護者が自分の子どもを自由に撮影できなくなることだってありうるわけです」(同)

 自主規制や自粛が強まると、本来自由に撮影できるはずのものが撮影できなくなる可能性がある。また、個人情報への過度な配慮によって、卒業アルバムや記念写真に全員の顔がそろわないことにもなりかねない。

「テクノロジーの進化による高度情報通信社会の発展自体は、それがもたらす利益や利便性もあり、喜ばしいはずです。ただ、それに人の心が追いついておらず、過剰な反応となって表れているのかもしれません。法律の改正も、さまざまな変化に対応するためのものです。かつてインターネットが使われ始めたころは『怖いもの』と思われていましたが、今では日常生活に欠かせませんし、顔写真やプライベートな情報をSNSに投稿するのが当たり前になっています。今後、個人情報の取り扱いについても自粛がエスカレートするのか、情報の有益性を認め、積極的に活用されるようになるのか、今はその過渡期にあるのかもしれません」(同)

(文/吉川明子)

アサヒカメラ特別編集『写真好きのための法律&マナー』から抜粋