それから、お岩さまが住んでいた四谷の家には、彼女が生前大事に祭っていたお稲荷さまがあったと伝わっていて、現在も屋敷跡と言われる場所に「於岩稲荷田宮神社」として残っている。今でも役者さんたちはこちらに舞台などの無事成功を祈願して参拝に訪れている。実はこのお宮、明治時代に失火で一度焼失しており、芝居小屋に近いという理由から、中央区新川に遷座した。昭和の中頃に再びこの地にも社が建てられたため、現在は同名の神社が2カ所となり、四谷のお宮は新川の飛地扱いとなっている。

 加えて四谷の地に「於岩稲荷田宮神社」がなかった時期に、お岩さまを祭る「陽運寺」というお寺が建立され、お岩さまに関連した寺社は4つになった。

 このような成り立ちから、諸芸上達のご利益を求めて各種芸能関係者たちの参拝が多いのだが、四谷怪談の内容からか「縁切り祈願」に訪れる人々も後を絶たない。特に「四谷於岩稲荷田宮神社」と「陽運寺」は道路をはさんでほぼ向かい合って鎮座しているため、二社を同時に参る人もいるほど。今やお岩さまは「たたる」人ではなく「悪縁を切」ってくれる身近な人になっているようである。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)

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鈴子

鈴子

昭和生まれのライター&編集者。神社仏閣とパワースポットに関するブログ「東京のパワースポットを歩く」(https://tokyopowerspot.com/blog/)が好評。著書に「怨霊退散! TOKYO最強パワースポットを歩く!東東京編/西東京編」(ファミマ・ドット・コム)、「開運ご利益東京・下町散歩 」(Gakken Mook)、「山手線と総武線で「金運」さんぽ!! 」「大江戸線で『縁結び』さんぽ!!」(いずれも新翠舎電子書籍)など。得意ジャンルはほかに欧米を中心とした海外テレビドラマ。ハワイ好き

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