もちろん、智則さんには別のダイナミックスと歴史があります。

 結婚記念日問題一つとっても、こうですから、双方の気持ちを丹念に話していくのは、気が遠くなるような作業に思えるかもしれません。お二人の場合は、おいでになるたびに、新しい発見をしていきました。智則さんは直美さんの誕生日にまた出張を入れていましたが、事前に気が付いて「あ、ごめん。またやっちゃったけど、1週間前のこの日に誕生会やろうよ」と言ってくれたそうです。トラブルはなくなりはしませんが、直美さんも激高することはなくなりました。

 多くの人が、夫婦の間には問題がたくさんあるから、一つ一つを安直に解決しようとしてしまいます。しかし、それでは、話はしたけど解決できなかった問題、一見解決したように見えるけど(少なくともどちらかには)しこりの残った問題が大量に生産されてしまい、相手に不信感を持つ結果に陥ってしまいます。

 遠回りのように思えても、小さな問題一つでいいので、丹念に丹念に糸をほぐして、2人ともがすっきりした解決をすることこそが、信頼感を得て、一緒にやっていくために何よりも重要なことなのです。(文/西澤寿樹)

※事例は事実をもとに再構成してあります

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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