ランナーを三塁に置いて、打者がヒットを打ったのに、三塁走者がホームインしないという理解に苦しむ珍事があったのが、1995年の東東京大会4回戦、帝京vs八丈。

 3本のホームランなど打線が爆発して5回までに9対1と大量リードを奪った帝京は、6回にも1点を加えて10対1とリードを広げ、なおも無死三塁のチャンス。

 次打者はライトへの大飛球。三塁走者はタッチアップすれば余裕でホームインできるはずだった。だが、なぜか途中で引き返してしまう。

 さらに四球で1死一、三塁とし、次打者が三遊間を抜く安打を放ったのに、三塁走者はまったく動かない。なおも1死満塁から2者連続で故意に三振し、スリーアウトチェンジになった。まるで「点は要らない」と言わんばかりの不思議な攻撃。八丈の応援席から怒りのヤジが飛んだのは言うまでもない。

 それでは、なぜこんなことが起きたのか?

 実は、帝京・前田三夫監督は、この日5番ライトで出場したエース・本家穣太郎を「暑さに慣れさせるため」7回から調整登板させようと考えていた。

 だが、この回に11点目を入れてしまうと、10点差になってコールドゲームが成立するため、7回までもう1イニングなんとか試合を引き延ばそうとしたのだ。

 試合後、前田監督は「相手校には大変失礼なことをした。申し訳なかった」とコメントし、都高野連の山本政夫理事長も「ベンチの作戦のひとつだろうが、結果的にはアンフェア。点を取るときには正々堂々と点を取るべきだ。今後はこういうことがないようにしてほしい」と注意した。

 この采配については、スポーツ紙などで報道されたのをはじめ、読売新聞も社会面で報じ、「勝利至上主義の弊害ではないか」という藤田元司前巨人監督の意見を掲載するなど、野球ファン以外も巻き込んでの侃々諤々の論議を巻き起こした。

 同年、甲子園に出場した帝京は、6年ぶりの夏制覇をはたしたが、本塁上のラフプレーや敬遠策などの際にスタンドからブーイングが起き、ヒール役のような立ち位置になった感は否めなかった。

 後年、前田監督は「(八丈に対して)大変失礼なことをしてしまった。もうそういうことはしちゃいけないです。(その後の指導では)どんなに点差が開いているときでも、気のないスイングをした選手にはスクイズを命じたり、チームを引き締めるということを意識して心掛けています。それも勝負ごとのひとつの経験です」と回想している。

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助っ人部員が全力で…