「デジカメが普及して、団塊世代が定年退職した人が増えたころからでしょうか。退職後にいい機材をそろえて写真を始め、富士山を撮影する人が非常に多いんです。それはもちろんいいことなのですが、この世代にマナーの悪い人が多いのも事実。ただ、注意したくても逆ギレされる可能性もあるので、怖くて言えないんですよね」

 団塊世代の写真初心者の人たちの特徴として、ダイヤモンド富士や紅富士など、定番スポットの写真を“習字の見本”として同じように撮影したがる人も多いようだ。

「プロの写真家の写真と同じ場所で同じものを撮ろうとするから余計に人気の撮影スポットは混雑します。しかも自然条件によってはプロよりも美しい写真が撮れてしまうこともあるのですが(笑)」

 富士山は人気の被写体なだけに、撮り尽くされてしまっているという現実もある。

「三角形の美しい安定構図で、きれいな富士山の写真は撮れます。でも、そこから脱皮して自分の個性を出した写真を撮るのは本当に大変です。私自身、最も難しい被写体でもあると思っています」

 一方で、富士山に来るのは写真愛好家だけではない。

「富士山の雄大な景色を楽しみにしている観光客も大勢います。ダイヤモンド富士のときには感動して拍手が起こったりするほどです。それなのに、近くで『今日は大したことないから撮らない』などと大声で言う人もいるんです。人の感動を削ぐようなことは絶対に言ってほしくない。そういうマナーのなってない人は、いい写真も撮れていないと思うんです。気持ちよく撮るということがいちばん大切ではないでしょうか」

(文・吉川明子)

アサヒカメラ特別編集『写真好きのための法律&マナー』から抜粋