長くリリーフとして活躍している益田直也(ロッテ・市立和歌山商)は少し特殊なケースである。中学までは投手だったものの、高校入学時に心臓の疾患が見つかったことから内野手に転向し、そこでもレギュラーをつかむことのないまま高校生活を終えている。関西国際大進学後に病気が完治したこともあって投手に再転向し、主戦となったのは4年時とここでも遅咲きだったもののドラフト4位でロッテに入団。1年目から中継ぎとしてフル回転し、2年目には最多セーブのタイトルも獲得するなどチームに欠かせない存在となっている。

 ここまで紹介した選手は控えとはいっても強豪校に所属しているが、なかには無名校で控えだったという異色のプロ選手もいる。それが又吉克樹(中日・西原)と戸田亮(オリックス・大成)だ。又吉が所属していた西原(沖縄)は過去10年間の地方大会を見ても最高成績は3回戦進出で、もちろん甲子園出場歴もない。又吉は高校時代そんなチームのセカンドの控えとしてプレーしている。一般入試で環太平洋大に進学すると、高校時代に打撃投手を多く務めていたことから投手に転向。徐々に力をつけて卒業後は四国アイランドリーグplusの香川に入団すると、1年目からいきなり13勝をマークし、その年のドラフトでプロ入りを果たすこととなる。ちなみに2位という順位は独立リーグ出身の選手で最高の順位である。プロ入り後は4年連続で50試合以上に登板し、2015年には侍ジャパンに選出されるまでとなっている。

 戸田の出身校である大成(東京)も2013年秋には都大会の準々決勝に進出したが、一次予選で敗退することも珍しくないチームである。戸田は高校時代は野手としてプレーしていたものの、レギュラーを掴めず、大学も強豪ではない高千穂大に進学している。そこで投手に転向するとスピードが大幅にアップしてJR東日本に入社。層の厚い投手陣の中でも150キロを超えるスピードを武器に活躍し、2012年のドラフト6位でプロ入りを果たしている。

 ここまで紹介したように、高校時代に控え選手でプロ入りを果たすケースは投手が大半である。歴史をたどると天秤打法で活躍した近藤和彦(元大洋など・平安)が高校時代は控えだったが、近年はそのような例はあまり見当たらない。

 ただ、本職としては控えだったという意味では今年プロ入りした山本祐大(DeNA・京都翔英)の例がある。中学時代から捕手だったものの、京都翔英では同学年に石原彪(楽天)がいたため外野手としてプレーし、3年夏には甲子園でヒットも放っている。卒業後はルートインBCリーグの滋賀に入団し、本職の捕手としてプレー。その強肩が注目を集めて昨年のドラフト9巡目で指名され、見事にプロ入りを果たした。

 このような事例を見ていると、どの選手も能力が伸びる時期は異なっており、何かのきっかけで大きく成長するケースがあるということはよく分かるだろう。今後も彼らのようなサクセスストーリーを掴む選手が一人でも多く出てくることを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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