あるお好み焼き店で、店に入って注文してから、店の方がキャベツを刻み始めた時は、「これはまずい」とやきもきしたという。粉を混ぜて焼いて、でき上がったと思ったら帰りの電車まであと5分ほど。「焼きたてのアツアツを3分ぐらいで流し込んで食べました。熱かったことしか覚えていません。あれ以来、お好み焼き屋ではすぐにできるのは何か聞くようになりました」(平尾さん) 

 ブログの存在は社内や取引先など多くの人たちに知られている。打ち合わせをしていて、昼休みまであと5分となると、周りもそわそわした雰囲気に。平尾さんは「打ち合わせの相手に『もう行かないといけないですよね』と言われます。そこは仕事優先ですが、なぜかいつもきちんと正午に終わります」と笑う。

 ランチに同行するメンバーたちも平尾さんをアシストする。先に店に着いて平尾さんの分の注文も済ませることもあれば、交差点の信号待ちでは、周囲をきょろきょろと見まわしてお店を探す。全員が一番早くできるものを頼んだり、セットのドリンクを料理と一緒に持ってきてもらったり。働く人には当たり前かもしれないが、小さな工夫の積み重ねが、ブログを続かせているのだ。

 徒歩で、電車で、駅からはシェアサイクルで……。さまざまな手段を駆使して、制限時間を守る。「1時間で行って帰ってくるとなると、(現在の勤務先がある野田からは)西宮までが限界ですね。夏、高校野球をやっている時は、阪神甲子園球場の中で食べて、3分ぐらい試合を見ることもありますが、それでも絶対午後1時までに会社に戻ります」(平尾さん)

 訪ねた店は3000店を超え、「気が付けば遠くに来たなあと。あのビルの中の店は全部行った、というようなプチ達成感はありますが、到達点がないものですし、エンドレスですね」と平尾さん。ネタ切れにならないかと心配になるが、「次々と新しいお店ができるので」と話す。

 ひょうひょうとはしているが、ブログにかける思いは熱い。平尾さんは、阪神・淡路大震災のすぐ後、1995年4月に入社。「(阪神電鉄の)乗降客数は震災前から減っていたのですが、震災後は減少が止まらなかった。(2009年に)阪神なんば線が開通し、ようやく調子が戻ってきましたが、これから人口が減っていったらお客様が減る可能性は十分にある。ブログが沿線の活性化につながればと思いますし、私自身もランチを通じて沿線活性化のヒントが得られればと思っています」

 大小さまざまな事業所の集まる野田の店はどこもご飯の盛りが多い。多くの人が行きかう梅田のスナックパークは、ボリュームはそこそこだが、手ごろな値段ですぐに出てくる。そんな駅ごとに違う店の雰囲気も楽しみつつ、平尾さんは今日もランチに向かう。(ライター・南文枝)