困るのはドラマや映画の衣装合わせの時だ。今でこそ、持ち道具さんの間で「佐藤二朗の足は尋常じゃなく大きい」ことが浸透し、31センチの巨大な靴をどの持ち道具さんも用意してくれるようになったが、昔は辛かった。持ち道具さんの目が「なんでお前の足はそんなに大きいんだ。ふざけてるのか」と言ってるようだった。無論ふざけてはいない。わりとふざけた人間ではあるが、足の大きさはふざけて31センチになった訳ではない。京都の太秦で時代劇をやった時、足に合う足袋がなく、困り果てた持ち道具さんから「なんやのソレ、ホンマになんやのソレ」と呆れられた。「なんやのソレ」と聞かれても、「足です」としか言いようがない訳だが、申し訳ない気持ちで一杯になったものだ。

 スリッパやサンダルは、かかとが出るなんてことは当たり前。つま先さえ入らないこともある。そうなるとほぼ裸足だ。高校の修学旅行でスキーに行っても俺だけ足に合うスキー靴がなくて見学。ボウリングに行くとみんなのレンタルシューズはマジックテープなのに俺のだけ紐。居酒屋や銭湯の靴ロッカーでは、両足の靴が一個のロッカーに入り切らず、片方ずつ入れて二個分のロッカーを使う。電車ではよく足を踏まれる。なんなら自宅でも妻によく踏まれる。ごめん、ちょっと今から近所の土手に行って泣いてきます。

 ただ実は、足の大きさが31センチもある人というのは、確かに身の回りにはそんなにいなくても、世界中を探せば、結構な人数がいると思う。俺が世界に類を見ないのは(←ヤケクソで話を大きくしてみた)、身長と足の大きさとのバランスのおかしさである。多分だが、足が31センチもある人は、身長がヘタをすれば2メートル、最低でも190センチ近辺なければダメであろう。いやダメってことはないが、バランス的にその辺りが相場だと思う。ところが俺の身長は181センチしかない。この身長なら普通は足の大きさは26~28センチくらいではないか。身長が181センチしかないのに足が31センチもあるというのは、例えるなら、ごめんなさいまるで例えが思いつかないんだが、要するにめっちゃファンキーなバランスなのである。

 俺が産まれた時の体重は、4250グラム。巨大児だ。それが全部、足や顔に行っちゃったんだろね。だから足や顔が、身長に比しておかしなくらい大きいんだろね僕。母親からは「あんた産んだもんでこうなった」と、そのでっぷんでっぷんの腹をさすりながらよく言われたものだ。

「独特の芝居」「独特の間」。よく言われる。ありがたいことだと思っている。しかし俺自身は独特になろうと全然思ってないのに周囲から独特と言われる。これ、もしかしたら、身長と足のバランスのおかしさが関係してるかも。根拠はないが、わりと本気でそう思う。だって独特だもの。この身長でこの足の大きさ、ホント独特だもの。こんな人、俺、今まで出会ったことないもの。

 そうだ。怪我の功名みたいに考えよう。スリッパが足に入らなくても、電車でよく足を踏まれても、独特の芝居を手に入れたのならそれで良い。ん何? 独特の芝居と独特の足の大きさは全然関係ない? ……ごめん、やっぱ今から近所の土手に行ってきます。(文/佐藤二朗)

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佐藤二朗

佐藤二朗

佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県生まれ。俳優、脚本家、映画監督。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズの仏役や映画「幼獣マメシバ」シリーズの芝二郎役など個性的な役で人気を集める。著書にツイッターの投稿をまとめた『のれんをくぐると、佐藤二朗』(山下書店)などがある。96年に旗揚げした演劇ユニット「ちからわざ」では脚本・出演を手がけ、原作・脚本・監督の映画「はるヲうるひと」(主演・山田孝之)がBD&DVD発売中。また、主演映画「さがす」が公開中。

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