■仲間意識が強い人間であることは、あまり知られていない

 「もちろん選手の起用を決めるのは監督の仕事。そこに、自分たちは口を挟む余地はない。ただチームの戦い方に関しては、普段から僕もどこか監督目線で考えているところがある。だから意見を求められれば、いつだって話すことはできる」

 これもまた、どこかで批判めいた意見が飛び出してくる言葉だろう。一選手がチーム全体の戦い方に深く関わることを、越権行為だと叫ぶ人もいるかもしれない。確かに、監督のやり方によってはそう取られる場合はある。ただ前述したとおり、西野監督は自ら選手たちに対してチーム作りに関与することを求めたのである。この場合、本田が率先して行動することに何ら問題はない。それはトップが認めた権利であるからだ。

 主張が強く、自身も矢沢永吉よろしく「成り上がりの人生」と語るほど、本田は自らを強く前に、上に押し出す生き方をしてきた。一方で、仲間意識がことさら強い人間であることは、あまり知られていないかもしれない。同じ目標を持った同志を支え、慕い、共に行動する。それは彼が現在サッカーと並行して実践するビジネスや教育の世界で、より顕著に発揮されている意識なのである。

「僕は、みんなで一つのものを作り上げることが、めちゃくちゃ好きなんです。生きていけば生きていくほど、人間は一人ではいろんなことが実現できないとわかるもの。同じ高い志を持った人間を巻き込みながら行動する。これが大きなエネルギーになると思っている」

 これは、かつてビジネス関連の取材で本田から聞いた言葉である。ただ耳にした瞬間、実はそれはサッカーの世界における彼の行動にも通じていることが理解できた。

 ロシアに入り、本田は記者を前にこんな話をしたことがあった。

「僕が普段、チームに関わりながらどんなことをしているのか。それは僕が自分から言うことはないですけど、周りに聞いてみたらどうですか」

 実際に日本代表のスタッフの話によると、「彼はミーティングでの発言はもちろん、食事会場でも率先していろんな選手に声をかけ、誰よりも話し、さらにスタッフにも目を配ってコミュニケーションを取っている」という。初めてワールドカップに参戦するスタッフたちの相談にも乗り、励ますなど、彼はこの大勝負で勝つために、とにかく仲間を一つにすることに苦心する。

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一味違った本田圭佑の哲学