■チームの「潤滑油」となった香川真司

 そうした香川の動きによって輝きを放ったのがボランチの柴崎だった。今大会では西野監督にボランチの軸として抜擢された柴崎の活躍が目立つが、それはボランチとFWの間に香川が入り込んでパスの選択肢を増やす働きが作用している。また、柴崎のプレーパフォーマンスが向上する以外にも、ボールが香川を経由することで前線はもちろん、サイドハーフをうまく活用する効果も出てくる。

 前線を1トップにして香川をトップ下に据えれば、2トップのメリットであるサイドからの味方クロスに対するゴール前の迫力やロングボールの収めどころ、ディフェンスラインの裏に抜ける動きなどが少なくなる。それでも香川が小さなスペースを見つけてそこへ入り込み、巧みなボールコントロール技術を駆使してチームの連動性を生める利点はある。

 もちろん香川本人は『ゴールやアシストという目に見える結果も狙っている』と言うが、今の彼には個人の結果にとらわれないメンタリティを得ている。また、初戦でPKとはいえ、記念すべきワールドカップでのゴールを記録できたことも大きい。大迫の手前で柴崎の展開力や乾貴士、原口元気との連動を引き出す香川のプレーは、いざ終盤に本田圭佑が途中出場でピッチに出てきたときの変化という効果も生んでいると思われる。そして、香川は高い位置からの守備の貢献度も高く、特に相手に対してハイプレッシャーを掛ける場合は欠かせない存在だ。

 ポーランド戦で6人のスタメンを入れ替えて4-4-2でチャレンジしたことはコンディション面でもチームマネージメントの部分でも有意義だっただけでなく、4-2-3-1でトップ下に香川が存在することの重要性が再認識されたという意味でも大きい。

 日本代表の決勝トーナメント初戦の相手はベルギーに決まった。その開催地であるロストフもボルゴグラードと同様に気温が高くなることが予想され、日本としては体力的に厳しい中で相手のタレント力に圧倒されるリスクもある。しかし、香川の動き出しとボールタッチが屈強な相手ディフェンスを揺さぶり、味方の連動を生んで得点チャンスに結びつけられれば勝機を見いだすことは不可能ではない。また、後ろからの組み立てが得意とはいえないベルギーには、香川の前からのディフェンスが大きな助けになるはずである。

 もちろん日本代表の10番には、この大一番でのゴールやアシストも期待される。チームを勝利に導くための潤滑油として、香川が今の日本代表でどれだけ機能できるかが勝利への鍵になる。(文・河治良幸)

●プロフィール
河治良幸
サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書は『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)、『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHKスペシャル『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才能”」に監修として参加。8月21日に『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)を刊行予定。