グレーバーが『負債論』で明らかにしたことは、「負債」の持つ意味だ。古代から人間社会は、分かち合いや贈与、貸し借りによって共同体が維持されてきた。ところが、それが貨幣によって借金として数値化されたことで「貸した人」と「借りた人」という上下関係が生まれ、「支配する人」と「支配される人」の構造が生まれたと分析する。

 グレーバーが例の一つとしてあげるのは、南北アメリカ大陸の征服と、その過程で大きな役割を果たした奴隷制だ。支配者は、奴隷に前金を渡した後、それを返済させるために5~10年の労働を強制した。これらは「年季奉公人」とも呼ばれたが、負債を追わせることで逃げることを許されないようにし、過酷な奴隷労働を強いていた。

 この構造は、形を変えながらも現代に残されている。現代社会で生きる人の多くは家、車、教育など、様々な債務(ローン)を抱えて生活している。債務があるために、自由な生き方が制限されるというのは、多くの人に共通した感覚だろう。国家に話を広げれば、ギリシャやイタリア、アフリカの発展途上国などが多額の債務抱えたことで、国家として独自の政策ができない状況に追い込まれている。

「グレーバーの『負債論』の原書は、08年のリーマンショックの記憶も新しい時期に刊行されました。街に破産した人があふれた一方で、問題を引き起こした巨大金融企業は債務返還を免除されました。誰もが『おかしい』と思った状況を生み出した、この『負債』について、はるか人類5000年の歴史をさかのぼり検証したのが、本書です。金融資本が幅をきかせる現代社会を理解する意味でも、必読書のひとつと言えるでしょう。それが多くの人に受け入れられたのではないでしょうか」(前出の版元編集者)

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常識破り思想に本田が共鳴?