原の監督としての特長は何といっても若手の抜擢である。野手では坂本勇人、亀井義行、松本哲也、長野久義、投手では内海哲也、山口鉄也、越智大祐、西村健太朗などを一軍の戦力に引き上げたことが長く安定した成績を残す礎となった。またベテランに対しても現監督の高橋をトップバッターに、河原純一と上原浩治を抑えに起用するなど思い切った配置転換で蘇らせている。選手に対しては時に厳しく叱咤する面も見られたが、その一方で、それは期待の裏返しであるという趣旨の発言を必ず繰り返しており、一方的に突き放すような言動は見られなかった。そのような姿勢があったからこそ、若手が伸びたと言えるだろう。

 そして過去10年の優勝監督を改めて見てみると、原以外にも現役時代に実績を残した監督が多いことに気づく。落合、秋山、工藤の3人は名球会入りを果たしており、他もレギュラーとして長く活躍した選手ばかりである。そんな中で異彩を放っているのが栗山監督だ。プロ入り前は国立の東京学芸大学でプレーしており、テストを受けてドラフト外でヤクルトに入団している。

 プロ入り後も1989年にゴールデングラブ賞は獲得しているものの、規定打席に到達したのはその年だけであり、7年間のプロ生活で通算安打は336本。ほかの優勝監督に比べると実績で大きく劣ることがよく分かるだろう。しかし2012年に日本ハムの監督に就任すると、その年にいきなりリーグ優勝。翌年こそ最下位に沈んだものの、その後も安定した戦いを続け、2016年には見事に日本一に輝いている。

 栗山監督の選手に対する接し方も原監督に通じるものがある。キャンプイン初日には選手全員に必ず声をかけ、普段からのコミュニケーション量の多さに選手たちは驚いたという。また、短期的な結果に左右されることなく、その選手の可能性がどうやったら広がるかを考えて起用していると常々語っており、たとえ二軍に落としたとしても、その理由を説明することを怠らない。栗山は現役引退後、コーチを経験せずに監督となっているが、解説者時代から常にグラウンドで多くの選手、監督、コーチに質問をぶつけており、その姿勢も際立っていたという。巨人の高橋や阪神の金本知憲は選手としてのカリスマ性は抜群だったものの、そのことが選手との間に壁を作ってしまっているように見えるのとはまさに対照的である。

 高校野球の世界でも、以前はとにかく厳しく選手を追い込み、時には体罰も辞さないような指導で頂点を極めるケースが多かったが、近年結果を出している西谷浩一監督(大阪桐蔭)、荒井直樹監督(前橋育英)、小針崇宏監督(作新学院)などは指導中に大声をあげるようなことも少なく、選手の能力を引き出すことにたけている。プロもアマチュアも選手を管理し、押さえつけるような指導では勝てない時代になっているのではないだろうか。

 梨田監督が辞任した楽天は平石洋介ヘッドコーチが監督代行に就任したが、栗山監督と同様に選手としての経験は乏しい指導者である。しかし高校時代から、そのキャプテンシーには定評があり、二軍で指導者として実績を積み、一軍のヘッドコーチを任せられるまでになっている。今後も栗山監督、平石監督代行のように、選手時代の経験が乏しくても指導者としてのノウハウをしっかり学び、実践できるような監督が出現してくることにも期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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