■世間の評価はうなぎ登りだが…

 しかしながら、守備時もしっかりと視野を確保しながら相手の狙い所に蓋をしていく柴崎のディフェンスは頼もしい。反省の残る攻撃についても中盤から配球するだけでなく「タイミングが合えば前線に出て行こうというのはイメージしていた」という。

「後半は特にロングボールや長い距離のボールが増えたので、まずはそこのセカンドボールの回収と流れがよければ、そのまま飛び出していくという部分は2、3個いい場面があったかなと思います」

 その象徴的なシーンが後半15分のシーン。香川真司が高い位置で相手のミスからボールを拾い、原口を経由する間に右サイドの前方に回り、展開されたパスをワンタッチのリターンクロスをディフェンスとGKの間に送ったが、走り込んできた大迫の足に合わなかった。

「あんまり見えてはいなかったんですけど、走り込んでくれることを、前半に大迫選手がニアを狙っているというのがよく見えていたので、そこを狙っているだろうなと。うまくクロスをあげられたかなと思います」

 さらに後半アディショナルタイムにはカウンターから岡崎慎司が落としたボールを柴崎が駆け上がって拾い、大迫につないで途中出場の宇佐美貴史がカットインからシュートに持ち込もうとしたが、ディフェンスに阻まれた。組み立ての面は本人曰く、理想的にいかなかった中でも、相手の嫌がるロングボールを効果的に使い、後ろから機を見て、ゾーン間に顔を出していくプレーは1つの成果だ。

 試合前にはセネガル戦の結果は“自分次第”とも語っていた柴崎。世間の評価はうなぎ登りだが「スコアに直結したかどうかは僕だけのものではないですけど、スコアというよりは自分に対してもっとできるだろうという気持ちが強いので、試合のパフォーマンスに関しては個人的に全然納得してはいないです」と自分に厳しく語るのはそれだけ自身に期待しているからでもある。

 3年前にシンガポールで同世代のネイマールを擁するブラジルに惨敗した後で「並大抵の成長速度では追いつくことはできない」と語っていた柴崎。そこから厳しい目標を立てながら1ステップ、また1ステップと進んできて今がある。しかし、ここがゴールではない。目標と現在地。その距離感を測りながら意欲的に、しかし臨機応変にプレーを実行していく26歳のMFがさらなる躍進の鍵を握っていることは間違いない。(文・河治良幸)

●プロフィール
河治良幸
サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを担当。著書は『サッカー番狂わせ完全読本 ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)、『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)など。Jリーグから欧州リーグ、代表戦まで、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHKスペシャル『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才能”」に監修として参加。8月21日に『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)を刊行予定。