やがて「こんなところにいられない」と気づいたときにはもう遅い。自分のスキルと転職可能性の限界に気づき愕然となっても、もう耐える選択肢しか残っていないのだ。

 シンガポールやアメリカでもそういうことはゼロではないが、日本のそういう話をすると「なんでみんな辞めないの?」と言う。

 働き方改革で最も大事なのはモビリティを持たせることだと思う。日本の場合はスキルと労働市場が鶏と卵なので、無責任に「こういう準備をしたら」とはいいにくいが、もし子どもがいるなら、少なくとも子ども時代からモビリティを準備してあげる方がベターだと思う。なぜなら今の子どもたちが大きくなるころには、日本にいてもモビリティを持たないと生き残れなくなってくるだろうし、世界はもうモビリティなしでは、どうしようもない場所になっているからだ。

 では自分自身は何をすべきか。モビリティに必要なのは、自分が選んだ場所で、数字で成果を明確に出す癖というかスキルを付けることです。組織をまたいで自分の実力を発揮できるヒューマンスキルもそうでしょう。語学力もあったほうがはるかにいい。最低でも英語です。日本国内の資格は「ないよりはまし」「かなりまれに特別ボーナスになる」くらいだと思ってください。

 交渉でも「席を立てる」くらいの雰囲気を出している方が強いです。実際に「席を立つ」のではなく「こいつ席を立っちゃえるよ」と思わせるくらいの余裕のあるオーラを出すことが大事だと思います。

 自分には向かない考えと思われるかもしれませんが、今の長期飼い殺し制度は「富国強兵」の産物で、実は明治時代や大正初期の日本人もガンガン転職・起業していたのです。

 われわれの遺伝子の中には、もともとモビリティが入っていると思うのです。

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田村耕太郎

田村耕太郎

田村 耕太郎(たむら・こうたろう)/国立シンガポール大学リー・クアンユー公共政策大学院兼任教授。ミルケン研究所シニアフェロー、インフォテリア(東証上場)取締役、データラマ社日本法人会長。日本にも二校ある世界最大のグローバル・インディアン・インターナショナル・スクールの顧問他、日、米、シンガポール、インド、香港等の企業のアドバイザーを務める。データ分析系を中心にシリコンバレーでエンジェル投資、中国のユニコーンベンチャーにも投資。元参議院議員。イェール大学大学院卒業。日本人政治家で初めてハーバードビジネススクールのケース(事例)の主人公となる。著書に『君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?』(マガジンハウス)、『野蛮人の読書術』(飛鳥新社)、『頭に来てもアホとは戦うな!』(朝日新聞出版)など多数

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