国の動きも少し出てきました。2018年3月に総務省が「DV加害者の依頼した弁護士は加害者とみなす(だから住民票等を出してはいけない)」という通知を出しました。この通知以降はA子さんのように、加害者の弁護士が支援措置制度を破って被害者の情報を得ることはできないことになりますが、それでも起きてしまったのが、前述の足立区のケースです。「DV等の被害者は加害者から逃げた後も住民票は移さない」は、被害者自身が自分の生命を守るための手段なのです。

 このような通知が出る前から、しっかりと被害者の安心・安全を守っている自治体が多く存在する一方で、総務省からの通知が出た後も情報漏えいしてしまう自治体もなくなりません。この差は一体なんなのか、その実態を知るために、エープラス(DV被害者支援団体)が全国初の調査を行いました。

 調査は全国の政令市・中核市・特別区(97自治体)を対象にアンケート方式で実施し、2018年6月8日時点での回答率は42%でした。回答によると、窓口を訪れた弁護士などの依頼者が分からない場合、「直接弁護士らに聞く」と答えたのは30自治体。一方、依頼者を証明する書類の提示を求めるとしたのは5自治体にとどまりました。

 被害者の生命の危険にも関わるため、アンケート内容の詳細については公表しませんが、92%の自治体が、「支援措置制度については重要な制度であり被害者の情報を守るために全力をあげている」と回答していることは、被害者支援活動をする私たちとしては本当に心強く感じました。

 しかし、一方で被害者をしっかり守ろうという自治体と、そうでない自治体とが二分されていることも明らかになりました。その両者の違いは、その自治体全体の「DV等の被害者をどう捉えているか」という意識の差です。ある自治体は「必要でない人も支援措置を受けているので仕事が増える」「もし加害者に所在地がばれてしまっても日常生活のそれほど影響はない」という意見を寄せました。

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役所の担当者4割が「至急、必要」と答えたこと