西武・辻発彦監督も「選手も気合が入っていたと思うんだけど、肩すかしになっちゃったね」と苦笑した。4番の山川穂高も、試合前夜から松坂の投球映像を何度も見返し、「データは松坂さんの分しか見ていませんでした」と言う。西武の歴史を彩る“レジェンド”との対決を心待ちにしていた分、その落胆も大きかったようだ。

 今月8日のソフトバンク戦(ナゴヤドーム)で5回1失点の好投を見せ、かつての古巣相手に今季3勝目を挙げてから中8日。ただソフトバンク戦でも、ラストイニングの5回に左臀部の筋肉が張ったことを松坂自身が明かしていた。その影響が少なからず残っていたのかもしれない。松坂は都内で精密検査を受けた上で今後の調整スケジュールを検討することになる。

 中日の永田暁弘トレーナーも、背中の張りのケースは一般論として「回復には1週間くらいかかるのではないか」と前置きした上で、「ボールを投げるまで、そんなにかからない」とその見通しを語ったが、予断を許さないところだろう。松坂は5月13日の巨人戦(東京ドーム)でも右ふくらはぎの張りを訴えて3回に途中降板。そうしたブランクから、森監督は松坂の登板間隔を最短中6日、最長で中13日と、十分な間隔を空けてきた。

 それでも今季ここまでの2カ月半で、松坂のこうした筋肉系のアクシデントは明らかになっただけでも3度目になる。森監督はプロ初勝利の好投を見せた藤嶋の先発ローテ入りに関し「今後の松坂次第」とも語るなど、松坂の今後の回復具合を入念に確かめていく意向を示した。

 さらに心配になるのが、今月15日現在の中間発表でもセ・リーグの先発投手部門でトップを走っているオールスターのファン投票だ。昨季まで球団ワーストの5年連続Bクラスと低迷が続いてスター不在の中日にとって、球団内部では松坂のファン投票選出は“悲願”と位置づけられ、締め切り前の最後の頑張りとばかりに、球団を挙げてファン投票を呼びかけているほどだという。

 特に、7月14日の球宴第2戦の舞台は2016年4月14日の地震で大きな被害を受けた藤崎台県営野球場だ。松坂も修繕費用として1000万円を寄付するなど、思い入れのある場所でもある。

 “主役”が熊本のマウンドに立たなければ、絵にならないような雰囲気すらある。それだけに、西山球団代表も残り1カ月足らずに迫った球宴へ向け、松坂の回復具合について「そんなに長引くとは思っていない。(球宴へ向けても)最善を尽くします」と強調する。

 松坂の体は、大丈夫なのかーー。

 今はただ、本人が肩や肘の異常を訴えていないことが、せめてもの救いなのかもしれない。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。