31年目をスタートしたエレファントカシマシhttp://www.elephantkashimashi.com/
31年目をスタートしたエレファントカシマシ
http://www.elephantkashimashi.com/
全国で10万人を動員した30周年ツアー最終公演で熱唱する宮本浩次
全国で10万人を動員した30周年ツアー最終公演で熱唱する宮本浩次
30周年ツアー最終公演はさいたまスーパーアリーナで大フィナーレを迎えた
30周年ツアー最終公演はさいたまスーパーアリーナで大フィナーレを迎えた
キャリア全域にわたり代表曲を歌う選曲でファンを魅了した
キャリア全域にわたり代表曲を歌う選曲でファンを魅了した
エレファントカシマシ23枚目のオリジナルアルバム『Wake Up』(ユニバーサルミュージック)
エレファントカシマシ23枚目のオリジナルアルバム『Wake Up』(ユニバーサルミュージック)

 エレファントカシマシの23枚目のオリジナルアルバム『Wake Up』のテンションが高い。「Wake Up」「夢を追う旅人」「RESTERT」「旅立ちの朝」……など全12曲。曲名にも表れている通り、不屈の心がヴォーカルの宮本浩次の声でぶれることなく歌われていく。

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「どんなに悪ぶってきても、ふり返れば僕たちはいつも“理想と敗北”を歌い続けてきました。それしかできないというかね。バンドのメンバーも50代になりましたけれど、人間って、変化はしてもなかなか成長はしないのかな、と感じています。デビュー当時から最新作まで、結果的に一貫して1つのテーマを歌えてきたことは幸せです」

 人には、なりたい理想の自分がある。しかし、なかなか望み通りにはいかない。そんな現実へのやるせなさ、怒り、悲しみ、それでも前を向こうとする歌詞が、リスナーから共感を得てきた。アルバムに収録されている多くの曲は2017~2018年のデビュー30周年ツアー中につくられた。昨年、ツアー中の大宮ソニックシティを訪れたら、バックヤードに宮本の声が響いていた。

「あれはアルバムの2曲目の『Easy Go』です。最近は実際に歌いながら歌詞を書くことが多くなりました」
ツアーは47都道府県すべてで行われ10万人を動員。さいたまスーパーアリーナでの最終公演には同世代の仲間、スピッツとMr.Childrenもかけつけた。

「30周年のツアーは、エレカシ史上最高のライヴでした。自分たちに誇りを持てた。どの会場にもお客さんが集まってくれて、30周年記念のベスト盤も高セールスで、初めて紅白歌合戦にも出場しました。30年間続けてきてよかった。歌手でよかった。はっきりと思えた1年です。僕個人のことをいいますと、この1年で顔が変わったんですよ。ツアーのスタート時は、期待と不安におののきながら道の端を遠慮がちに歩いている、50代なのにちょっと書生さんみたいな顔でした。それが、手前みそになりますが、エレファントカシマシのヴォーカリストとして自信をもって歌う男の顔になった。自分でもびっくりしました」

 その宮本のマインドがストレートに反映されているのが、アルバムのラストナンバー、「オレを生きる」だろう。

「たとえ笑われようが、夢を抱いて、オレはオレの人生を生きるしかないことを歌っています。エレカシはミスチルの真似も、スピッツの真似もできません。僕はユーミンにも桑田佳祐さんにもなれません。エレカシはエレカシとして、理想と敗北を歌っていくしかない。でも、それこそが僕たちが勝負できるテーマです。30年かけて確信することができました」

 事実エレカシは何度も大きな危機を乗り切ってきた。レコード会社から2度も契約を切られた。宮本は耳の病気で手術もした。それでも立ち上がり、逆境すらも歌詞や音に反映させた。このバンドは、宮本浩次が思っていること、感じていることを背伸びせず、謙遜も卑下もせず等身大で歌い演奏する。裸の自分をさらけ出してきた。だから、宮本の歌は宮本が歌わなくてはならない。ほかのシンガーがカヴァーしても、魂を伝えきれない。楽曲と、作り手歌い手がこれほど同化しているバンドはほかにはちょっと見当たらない。

「音楽にはもちろん技術は必要です。でも、それ以上に、そのミュージシャンだからこそのものはなくてはいけない。そこに絶対に輝きがある。その輝きが共感を呼びます」

 エレカシは6月23日に29年連続の日比谷野外音楽堂で恒例のライヴを行い、6月25日から「エレファントカシマシ TOUR 2018 “WAKE UP!!”」をスタート。「FUJI ROCK FESTIVAL’18」「SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER 2018」など多くの夏フェスにも出演する。

「今の自分たちにとって最高のアルバムができたので、ライヴではその1曲1曲をしっかりと伝えたい。歌詞もメロディも演奏も、リアリティをもって伝わるように万全の状態を整えて臨みます」(神舘和典)

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神舘和典

神舘和典

1962年東京生まれ。音楽ライター。ジャズ、ロック、Jポップからクラシックまでクラシックまで膨大な数のアーティストをインタビューしてきた。『新書で入門ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)『25人の偉大なるジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。「文春トークライヴ」(文藝春秋)をはじめ音楽イベントのMCも行う。

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