――学生を教育、指導するにあたってどのようなことに留意していますか。

すべての学生が不平不満を覚えないようにする、やりがいを感じるようにする、そして成果が認められるように工夫することが大切です。

 どの運動部もレギュラーになれるのは、ほんの一握りです。多くは試合に出られません。試合で活躍する「一流」選手になれなくても、スポーツをして知的好奇心を持ち続けてほしい。やがて後進を育てていく。常に教育者としての一面をもたないとすばらしい指導者になれません。たとえ学生時代に一流でなくても、指導者になって一流選手を育てることはできます。日本体育大学にはそのようなOB・OGがたくさんおり、彼らを優れた功労者として表彰しています。

――日大アメフト部の問題についてお願いします。

 あってはならないことが起こった。それが指導者による指示といわれており、信じられないようなことで、まったくの想定外でした。問題を収束させるために加害者側が知恵を出さなかったことも、問題を大きくしました。

 わたしたちは対岸の火事とは思っていません。自戒の念をこめて真摯に取り組むべきと思っています。問題が起こったあと、学生、教職員には「フェアプレーの精神」を訴えました。これは入学式では常に話していることです。

 勝てばいいというものではありません。相手を尊敬しなければならない。繰り返しますが、日本人の国民性のなかに沈殿している武士道精神を、わたしたちは拘泥して持ち続けないと、日本人が日本人でなくなってしまいます。

 マスコミの報道のあり方にも問題があります。勝利至上主義が強すぎます。勝者にこだわりすぎて、大学のトップチームの試合しか報道しない姿勢はあらためてほしい。

――日本体育大学は国際平和を訴えています。

大学のミッションにこうあります。

「スポーツ文化の深化・発展に努め、オリンピック・パラリンピックムーブメントの精神の実践・普及を推進し、スポーツのもつ様々な『力』を活用して、国際平和の実現に寄与する」

 キャンパスには慰霊碑があります。第2次世界大戦で本学の学生約400人が犠牲になりました。平和でなければスポーツはできない。平和の尊さを知ることを学生たちに教えています。毎年8月上旬に慰霊式を行っており、平和を誓っています。

平和を実現するツールとしてスポーツは有効です。いまの韓国と北朝鮮の平和に向けての動きは、平昌五輪から始まりました。

 日本体育大学はこれまで各競技でスポーツ選手団を結成し、北朝鮮遠征をおこなってきました。日本政府から行ってはいけないと言われても、わたしたちは北朝鮮を訪問しました。政治とは一線を画してスポーツ交流によって国際平和を実現する。口先だけではだめです。実践しなければなりません。

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