張本が安打をエラーとした公式記録員に「喝!」を出したのが、68年4月13日の南海戦(大阪)。

 2回、先頭打者・張本は強い当たりの投ゴロを放ち、一塁セーフ。強襲安打と思われたが、公式記録は渡辺泰輔のエラーと発表された。

 直後、大下弘監督がネット裏に走り、安打に訂正を求めたが、「後ろから見ていると、打球はそれほど強くないと思った」という理由で却下。これでケチがついたわけではないだろうが、東映は3対4で負けてしまった。当然、張本の怒りも収まらない。

「あれは完全な強襲安打や。フォークをうまく打って会心の当たりだったのに、エラーにするなんてむちゃくちゃだ」

 試合後、張本は公式記録員に激しく抗議し、「審判の意見も聞く」と息巻いた。審判団も「非常に打球が強かったし、ヒットにしてはどうか」と証言したため、記録員は見間違いを認め、晴れてエラーは投手強襲安打に訂正された。

 この結果、打率2割ちょうどから2割5分に上げた張本は同年、最終的に2年連続の首位打者を獲得した。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら