松坂はソフトバンクでの3年間で1軍登板1試合のみ。メジャー時代には右肘、日本復帰後にも右肩と2度の手術を経験したこともあり、限界説がささやかれた。ソフトバンクを退団、現役続行の意向を打ち出したときも、周囲からは「復活は無理」と騒がれ続けた。

 田口も復帰2年目の2011年、オリックスから戦力外通告を受けた。ところがその直後、自身の判断で右肩を手術して、現役続行の意向を打ち出した。ただ、松坂の場合とは違い、田口の獲得に乗り出す球団はなかった。現役引退を表明したのは2012年7月。引退試合もないまま、そのキャリアにピリオドを打った。

 松坂も、ソフトバンクで現役を終わる手はあった。2人は自分で引退を決められるだけの立場にある。それでも、田口も、松坂も、野球にこだわり続けた。

「意地みたいなのがありますよね。(引退を)誰が決めるんや。そんなん、俺が決めるんやと。本人は自信があるんです。結局は野球が好き。まだできる。自分の限界がどこなのかを知りたい。いろいろな制限や事情はあります。それでも野球をやらせてくれる環境があるうちは、野球をやるべきだと僕は思うんですよね。その中で、松坂が頑張っている姿を見ると、何とかせいよ、頑張れよって思いますよね」

 もう、150キロのスピードは出ない。あの投球フォームでは投げられない。もう、松坂は終わりだ。しかし、その限界を決めているのは実は周囲の声だったりする。

 松坂の心の中では、そんな“壁”は存在しないのだ。38歳の松坂がまた新たな「スタイル」を身につけているのを、田口は見抜いている。

「ボールの使い方ですよね。米国で覚えてきたんでしょうね。ちょっと動かしたり、その辺、あるのかなと。それはそれで、ありだと思うし、それで彼がどこまでいけるのか、楽しみじゃないですか」

 新天地・中日での今季、開幕2カ月で5試合に先発し、2勝を挙げた。かつての150キロを超える剛速球はない。スライダーにも、かつての威力はない。それでも、カットボール、ツーシームで、真っすぐ系の球を打者の手元で小さく動かす。それは、メジャー流の投球術。日本の投手にはあまり見られないテクニックを駆使しながら、打者を巧みに打ち取っていく。その新たな工夫も、松坂らしさなのだ。

次のページ
田口が松坂の進化を予測する