パートナーが、「ウソをつかれたことによる傷と不信感」に苦しんでいるのだとしたら、GPSをつけるとか、今いる場所の写メを送り続けるなどは明後日を向いた解決策だというのがわかると思います。少しでも痛みを軽減させてあげたいから「楽しいことを提供する」というのも明日を向いた話です。「浮気されたことによる傷つきと怒り」に苦しんでいる場合でも同じです。

 そういった、明日、明後日の話ではなく、今ここにあるパートナーの苦しみという形がなくとらえどころのないものにどう関わるかが、今の課題です。

「共感」という優等生的な答えはちょっと横において、少々下品ですが「つれしょん」と言ってみたいと思います。誰かがトイレに行くというと、一緒に行くというあれです。まずそもそも尿意にはなんだか一種の伝染効果がありますよね。言われるまでは尿意がなかったのに、誰かがトイレに行くというと、不思議と自分も尿意が出てきたりしますよね。それは一種の共感だと思います。

 尿意=苦しみ、トイレに付き合う=苦しみに付き合う

と考えてみてください。明日、明後日を考えてしまう人には、「苦しみに付き合う」がなかなか難しいのですが、それなら自分はそれが苦手なんだな、と自覚するのが、最初の一歩です。(文/西澤寿樹)

※エピソードは、事実をもとに再構成してあります。

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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