車でも、大きなエンジンを積むためには、大きなボディーがいる。高級外車と軽自動車では、加速も、スピードも、乗り心地も、ガソリンの量も違う。大きいことが全てではないのは確かだ。それでも、プロとしての「強い体」を持っているのか、鍛えれば強くなるのか。その目安としてスカウトが判断する材料にするのは、ボディーサイズなのだ。

 標準となるのは、180センチ前後。175センチを割ると「小さい」と言われる。高校や大学の場合、スカウトは大会のプログラムや新聞のメンバー紹介で身長と体重を確認し、小さいと判断すると、その時点で調査対象から外すこともある。

 城島健司182センチ、古田敦也180センチ、伊東勤181センチ、梨田昌孝178センチ、谷繁元信176センチ、野村克也175センチ。往年の名捕手たちと比べると、甲斐の「170センチ」は際立つ。当時、甲斐の担当スカウトからの小川への報告も「小さい」というものだった。

「支配下だったら、ボーダーラインだったと思うよ」

 だから、他球団が甲斐を獲得しようとする動きは鈍かった。ただ、ソフトバンクは翌2011年から3軍制を本格稼働させることを決定していた。それに伴い、育成選手を増やす方針も固まっていた。

「あれだけの地肩があって、球を捕ってから送球までの動きも速かった。いい肩というのは、それだけで十分なんですよ。育成があったのが大きかったね。それで『甲斐を行こう』って、すんなり決めたからね」と小川は言う。

 育成6位指名。甲子園への出場経験もない、無名の小さな捕手。ただ、肩だけはやたらに強い。小川はそうした「一芸」に光る特徴を持つ選手を見抜くことは、スカウティングで大事だと強調する。

ドラフト候補になり得る素材感というのかな。体が小さい、細い。それでも1つ、何かいいのがありますよと。それがあれば、育成だったら十分なんですよ」

 その強肩は先輩たちの目も引いた。当時、ソフトバンクと育成契約を結んでいた大西宏明は、プロ9年目の外野手だった。PL学園時代の1998年夏、横浜との延長17回の死闘を演じ、横浜・松坂大輔から3安打を放った。近鉄、横浜では「左キラー」と呼ばれ、準レギュラー格として活躍した経験もある。

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ドラフト1位も仰天!「どっちがドラフト1位や?」