さらに、投球を受けて捕手が送球し、二塁ベースカバーの野手のグラブに送球が収まるまでのメドは「2.0秒」。これをメジャーでは「ポップアップタイム」と呼び、強肩の指標ともされている。

 この2つの動作を合わせての「3.2秒」。これが、盗塁を許すか、阻むかのボーダーラインになる。文字通りの“コンマ以下”の戦いの中で、捕手の肩が重要な要素を占めているのだが、甲斐はその「ポップアップ」で驚くような数字を連発している。

 野球のデータサイト「DELTAGRAPHS」によると、4月29日時点での「ポップアップ」で今季の上位10人の記録が集計されているが、1位から4位まではすべて甲斐がたたき出した数字だ。

 最も早かったのは、4月25日の西武戦でマークした「1.74秒」。さらに同4日の西武戦と11日の日本ハム戦での「1.77秒」が2位タイ、同3日の西武戦での「1.79秒」も4位相当になる。ちなみに、田村の最速は9位に相当する「1.81秒」。10位までのうち、甲斐のタイムが5度ランクインしており、同サイトによると、2016年以降でのNPB最高のタイムは甲斐の「1.67秒」だと紹介されている。

 つまり、甲斐は「強肩」という武器で相手の盗塁への意欲をそぎ、警戒心を高めさせるのだ。つまり“事前阻止”させるだけの『力』を秘めている。

 その凄さは、大分・楊志館高時代から全国にとどろいていた。12球団のスカウトが強肩の評判を聞きつけ、甲斐のプレーを次々に視察に訪れた。高校時代から「ポップアップ」は1.8秒前後。ソフトバンク・小川一夫2軍監督は、甲斐が高3だった2010年当時、スカウト部長の要職にあった。

「とにかく、肩は強かったよ。本塁打も30発以上打っていて、パンチ力もあったよね」

 ただ、ネックになったのが170センチという身長だった。

 プロの世界は2月のキャンプにはじまり、桜が咲き、暑い夏を迎え、秋が終わるまで野球をやり続けなければならない。その体力を維持するのは半端なことではない。

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育成枠の拡大が功を奏して「プロの道」へ