ただ、それだけでは十分ではない。進行することだけに気を取られて、共演者への気遣いが足りない人は司会者には向いていない。細かいところにまで気を配り、共演者が話しやすい空気を作るのも大切だ。優しくなければいい司会者とは言えない。

 その点、加藤は強引さと優しさを高いレベルで備えている有能な司会者である。彼はその場を無難に収めるだけにはとどまらない。「狂犬」と呼ばれた頃に身につけた突破力で、時にはあえて厳しい質問を投げかけたりして、場を緊張させるような言葉を放つこともある。それが結果的に番組を盛り上げることになる。

 相方の不祥事のときの謝罪でも明らかになったように、加藤には目の前のことに向き合い、まっすぐな感情をぶつける誠実さもある。芸人仲間から「加藤には男気がある」と言われるのはこういう部分だろう。

 司会者という仕事に慣れてくると、どうしても形だけで番組を進めているような状態に陥ってしまいやすい。だが、加藤には今でもそういう印象がない。通り一遍のやりとりだけで終わらず、常に自分の頭で考え、自分の感覚で言葉を発している、というのが見て取れるからだ。

『めちゃイケ』では、レギュラー出演者が1週間のうち2日間を撮影のために拘束されていたと言われている。これがなくなったのは、加藤を起用したかった制作者にとってはこの上ない朗報だろう。彼の司会者としての資質を考えれば、レギュラー本数は4本でも少なすぎるぐらいだ。「狂犬」から「突破力のある司会者」に生まれ変わった彼は、『めちゃイケ』終了を機に活躍の場を広げていくことになるだろう。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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