国際オリンピック委員会(IOC)も世界保健機関(WHO)も「たばこのない五輪」を求めている。最近のオリンピック開催国(カナダ、英国、ロシア、ブラジル)は飲食店を含めて「屋内禁煙」を法律や条例で定めた。公衆の集まる場(public places)すべてに屋内禁煙義務の法律がある国はすでに55か国にのぼる。オリンピックを開催するのに喫煙室での喫煙を認めるという非常に緩い屋内禁煙さえ実施できないということになったら、日本は世界に恥をさらすようなものだ。

 そもそも、受動喫煙は肺がんになるリスクを1.3倍高め、日本では年間1万5000人が亡くなっている。人の生命・健康に関わる大問題だ。さらに、こうした健康被害による医療費は年間3000億円と推計され、国の財政、すなわち、国民の財産にも大きな損害を与えている。したがって、受動喫煙ゼロを目指すことは、オリパラがなくても、日本にとって議論の余地などない政策課題である。

■利益団体にめっぽう弱い安倍総理

 上記のとおり、やるべきことははっきりしているのに、これまで法案さえ出せなかったのは、喫煙に関わる利益団体が自民党や公明党に圧力をかけているからだ。安倍総理は、実は、利益団体にはめっぽう弱い。アベノミクス第三の矢である成長戦略で全く成果が出せないのは、規制改革などをやろうとするときに既得権グループが反対の声を上げると、すぐにそれに負けて改革の提案を取り下げてしまうからだ。国家戦略特区の有識者会議の有力メンバーと会食した時、「安倍さんは改革派じゃないことははっきりしている。改革は口先だけだ」とこぼしていた。

 受動喫煙対策で本格的規制を導入しようとすれば、葉たばこ農家、たばこ販売店、JT、そして、膨大な数の飲食店業界が反対する。財務省もたばこ税収が減り、最重要天下り先のJTが困るから、抵抗する。こうした利益団体の圧力を受けた自民党内の族議員たちも反対姿勢を強め、それは、安倍総理の自民党総裁三選に悪影響を及ぼす。私は、ただでさえ、利権に弱い安倍総理は、こうした反対運動と戦う勇気など持ち合わせていないだろうと見ていたが、その見立てが正しかったことが、今回の法案提出ではっきりした。

■小池都知事との姑息な駆け引き

 昨夏のことを思い出していただきたい。東京都の小池都知事は、受動喫煙対策条例制定を昨年7月の都議選での争点化を狙って公約に掲げた。利権に弱い安倍総理に対抗するには格好のテーマになると読んだのであろう。小池氏らしい人気取り政策だ。

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