巨人・中畑清=1986年撮影 (c)朝日新聞社
巨人・中畑清=1986年撮影 (c)朝日新聞社

 2018年シーズンが開幕して1カ月以上が経ち、贔屓チームの結果をチェックするのが日課となった今日この頃だが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、80~90年代の“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「不思議な得点シーン編」だ。

*  *  *

 盗塁を阻止しようとした捕手の送球が打者のバットに当たったことから、まるで冗談みたいな得点シーンとなったのが、1986年9月30日の巨人vsヤクルト(神宮)。

 5対0とリードした巨人は、1死から篠塚利夫の左越え二塁打と吉村禎章の死球でチャンスをつくり、クロマティの左前タイムリーで1点を追加。なおも1死一、二塁で5番・中畑清が打席に入った。

「そんなまさか!」の珍プレーが起きたのは、直後だった。

 黒田真二の初球、巨人はダブルスチールを試み、二塁走者・吉村が三塁を狙った。すかさず捕手・八重樫幸雄が矢のような送球を三塁に……と思ったら、ボールはなんと、打席の中畑のバットに当たり、コーン!という音とともに跳ね返り、三塁側フェンスを転々……。この間に吉村が笑いをかみ殺しながら三塁を回り、7点目のホームを踏む。巨人ベンチももちろん大爆笑だ。

 3回にもタイムリー二塁打を放っている中畑はこの場面の直後、1死三塁から中犠飛で2打点目を挙げたが、「あんなの初めてだよ。ホント、ラッキーだ」と驚きながらも、「バットに当たったから打点。あれも入れて、オレの打点は3じゃないの?」と快気炎を上げた。

 実は、珍プレーには前兆とも言うべき怪事件があった。試合前の打撃練習で、中畑のバットが芯の部分からまるで真横に切ったように真っ二つに折れてしまったのだ。

 9月24日の広島戦(後楽園)で主砲・原辰徳が左手首有鈎骨を骨折して戦列離脱して以来、7試合中5試合で打点を記録している絶好調男は「今日はバットに変なツキがあったな」と笑顔で締めくくった。

{!-- pager_title[走者二塁なのに犠飛…?] --}
 アウトカントの勘違いからラッキーな決勝点が入ってしまったのが、1990年6月5日のオリックスvsダイエー(平和台)。

 5対5の同点で迎えた8回表、オリックスは1死二塁で5番・藤井康雄がセンターから右寄りに大飛球を打ち上げた。センター・岸川勝也が右方向に走って余裕でキャッチ。ここまでは良かった。

 ところが、まだ2死であるにもかかわらず、うっかりスリーアウトチェンジと勘違いした岸川は、ここでプレーを中断してしまう。

 すでにタッチアップしていた二塁走者・弓岡敬二郎は「しめた!」とばかりに俊足を飛ばして三塁を回り、決勝のホームイン。本来なら2死三塁のはずだったのに、オリックスは拾い物の決勝点を利して、6対5と勝利した。

 試合後、「あれはありがたかったけど、勝ちは勝ち」と上田利治監督。期せずして犠飛が記録された藤井も「ラッキー、ラッキー!走者二塁で打点を稼げるなんて」と大喜びだった。ちなみに藤井は同年、打点王こそ逃したものの、16年間の現役生活で自己最多の96打点を記録している。

 一方、痛恨のボーンヘッドを犯した岸川は、この日2、4回に同点弾を含む2打席連続本塁打と打つほうでは大活躍。しかし、同点の7回2死満塁の勝ち越し機に、高木晃次が投じた初球のボール球に手を出して遊飛に倒れた。ここで快打を飛ばしていれば文句なしのヒーローになれたのに、打ち急ぎが悔やまれた。そんなモヤモヤした気持ちを引きずったまま直後の守備に就いたことが、高価なミスを誘発してしまったようだ。

 試合後、「アウトカウントの間違い?」の報道陣の問いに、ただ頷くのみだった。

 グリップエンドに当たったボールが相手を混乱させ、まさか、まさかの同点劇!実況アナも思わず「野球は怖い!」と叫んだ世にも不思議なシーンが見られたのは、1997年10月19日の日本シリーズ第2戦、ヤクルトvs西武(西武)

 4対5で迎えた6回、ヤクルトは1死から宮本慎也、真中満、稲葉篤紀の3連打で満塁のチャンスをつくり、この年松井秀喜(巨人)を抑えて本塁打王を獲得した3番・ホージーが打席に立った。

{!-- pager_title[みんな固まった“まさか”の打球] --}
 カウント1-2から杉山賢人が投じた4球目、内角の胸元付近に食い込むスライダーに対し、ホージーは「避けようと思った」と少し体をのけぞらせた。この何気ない動作が、あっと驚く幸運を呼び込む。

 なんと、ボールは止めたバットのグリップエンドに当たり、捕手・伊東勤の前にポトリ。

「相手のピッチャーもキャッチャーもみんな、固まってたよ」

 この隙に乗じて、ホージーは脱兎のごとく一塁へ全力疾走。打球を処理した伊東が慌てて本塁ベースに駆け込んだときには、三塁走者の宮本がすでに同点のホームを踏んだ後だった……。

 西武・東尾修監督が苦笑いしながら「ファウルではないか」と抗議したが、判定は変わらず。伊東に野選が記録された。

 しかし、せっかくの同点打も、試合の流れまでは変えられず、チームは5対6とサヨナラ負け。ホージーもシリーズを通じて20打数4安打3打点のノーアーチとパッとせず、守備でもお粗末なプレーを連発。「こういうシリーズには、目立ちたがり屋のアイツは向いてないわ」と野村克也監督を嘆かせた。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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